2016年1月にネット上で公開された、『彩虹老爸/Pink Dads』という中国の作品です。性的マイノリティの家族会「同性恋亲友会(PFLAG China)」を取材し、父親にターゲットを絞って描いています。
作品のなかでも指摘がありますが、同性愛者やトランスジェンダーの子を持つ親として活動するのは母親が多いため、貴重な声が聞けるドキュメンタリーだと思います。
この作品によると、「同性恋亲友会」は中国国内に40の支部があり、1000人のボランティアのうち家族や友人は300人、そのなかで父親は約60人。数は少ないものの重要な役割を担っているそうです。
彩虹老爸/Pink Dads
約20分。中国語と英語字幕。
YouTubeに公式動画があります。
登場する父親は次の4人。
・福州市の父親
息子は小さい頃は虫が好きな男の子らしい子で、ゲイだとは思ってもみなかった。以前の息子は性的指向に苦しみ人生に悲観していた。30歳まで生きないといったことを口にしていた。親を避け、帰省しても目を合わせなかった。
・西安市の父親
同性愛に関する知識もあったので受け入れるのに苦労はなかった。ただ、息子が外見を気にして顔に何やらベタベタ塗っているのは理解できない。
以前は厳しい父親だったが、息子の立場に立つよう努力し、自分のあり方を見つめなおした。
・滄州市の父親
トランスジェンダーの息子は3歳の頃から女の子扱いされることを嫌い、スカートもはいたことがなかった。息子とはとても仲がいい。
・贛州市の父親
息子からカミングアウトされたときは人生に絶望した。ほとんどの友人に孫ができ「おじいちゃん」になっていくのを見るのがつらかった。奥さんが勧める資料を見るうち受け入れられるようになっていった。
このうち3人の父親が小さな劇を演じる様子が映し出されます。それぞれゲイの息子、息子を非難する母親、女性服を着る「息子」を叱責する父親を演じています。
劇の詳細は説明されませんが、司会者が『フォーラムシアター(討論劇)って聞いたことありますか?」と言っているので、単なる出し物ではなくワークショップの一種のようです。
作品のなかで滄州市の父親の話が印象的だったので、英語字幕を元に要約してみます。
彼にはトランスジェンダー男性の息子がいて(つまり生物学的な性別は女性)、とても仲がいいのですが、もしもトランスジェンダーの娘だったら、また違っていただろうと語ります。
「中国人にとって…もし私にトランス女性の息子がいたら、私も受け入れるのに苦労したでしょう。劇で私が演じた人物が言うように、『ゲイなら構わない。少なくとも男であることに変わりはないのだから。男は男であるべきだ』と。でもトランス女性となると…
でも今は違います。受け入れられます。前にも話しましたよね。済南市の『彩虹小組』のカカさんのおかげです。彼女もトランスジェンダーです。彼女はたった一言で私に理解させてくれました。『私は男性器の生えた女性なの。それが私』。それですぐ腑に落ちました。
男性の女性的な振る舞いも同じことですね。以前は女性的な男性を目にするのは落ち着きませんでした。見るたびに鳥肌が立っていました。でも、カカさんと話したあの済南のパーティー以来、まったく気にならなくなりました。」
「トランスジェンダーということでいえば、おかしな話ですが、(息子のことを書くため)文字を打ち込むとき、『女の息子(女儿子)』と打つのが私には自然なんです。娘(女儿)はもう娘ではなく、私の息子(儿子)です。息子ですが出生時の性別は女性です。だから彼は私の『女の息子』なんです。」
2012年に同じ制作陣が『彩虹伴我心/Mama Rainbow』というドキュメンタリーを作っています。これは「同性恋亲友会」の母親たちに取材した作品です。
28分。中国語と英語字幕。
Mama Rainbow 彩虹伴我心|YouTube
また、2016年に「同性恋亲友会」の重慶支部を取材した『山城 爱/Out in Chongqing』という作品もあります。「山城 愛」とは日本人の名前のようですが、山城というのは重慶市の別称だそうです。
印象的だったのは、ある父親のエピソードです。息子からゲイだと言われ、母親はひどく気落ちし、彼はこんな時こそ近くで家族を支えなければ、と会社を辞めたそうです。
16分。中国語と英語字幕。
山城爱 Out in Chongqing|YouTube
《日本の相談窓口》
・NPO法人LGBTの家族と友人をつなぐ会
・相談窓口のリスト |虹色-LGBT特設サイト(NHKオンライン)
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