中国の同性愛者とその家族に取材した記事が、环球时报(環球時報)という新聞のWeb英語版に掲載されています。
抄訳ですが、親子のエピソード部分は詳しく書き出したので結構長文です。
同性愛の子を持つ父母たちが語る悲嘆と喜び
Mothers and fathers of gay children tell their stories of heartbreak and joy |Global Times (2014)
2005年11月、ウー・ユージエン(吴幼坚/吳幼堅/Wu Youjian)がゲイの息子の母親として中国メディア中のヘッドラインを飾った。彼女は国内で初めて同性愛者の支持を表明した親だ。
以来、彼女の元には同じ立場の親が集まるようになり、2008年に家族会である「同性恋亲友会(同性恋親友会)」(英語名 PFLAGチャイナ)が設立された。
5月には上海でカンファレンスが開催され、数百人の親子が経験や思いを分かち合った。これは、LGBTの社会的地位向上を目的としたイベント「上海プライド」の一環として行われた。
大多数の親たちに深く根差した同性愛への先入観や誤解を変えることは確かに容易ではない。
息子からゲイだと知らされたばかりだという母親は、何時間も続いたイベントの間、泣き止むことができなかった。
もう一人の母親は、娘からは何も言われておらず勧められるまま参加したが、ディスカッションの途中でショックと怒りと共に部屋を後にした。
「こんなイベントにこんなに多くの人が現れるなんて思ってもみませんでした。こんなことが娘に起きているとしても受け入れられません。」
上海から来たという彼女は取り乱してその場を後にした。
しかし、出席しているほとんどの親はオープンで楽観的な姿勢をすでに学んでいる。山東省出身の母親Mei Jieは、上海で家族向けの無料相談を行っている。
「もし私がこのことを受け入れられず、息子を支えられなければ、彼は本当の意味で幸せにはなれません。わが子に苦しみの人生を送ってほしくありません。」
変化の第一線に立ってきた親の中には、目下のゴールは同性婚の実現だという人もいる。
「私は国の政策立案者に同性婚の法制化を提唱する試案の作成に携わっています。」
そう語るXiao Taoの父は、息子とパートナーの関係を事実上の結婚と認識している。
中国社会科学院の社会学者リー・インホー(李银河/李銀河/Li Yinhe)は、2003年から全国人民代表大会と全国政治協商会議に対し、同性婚の法制化を提案している。
昨年には、同性愛の子を持つ親たち100人以上の署名入り公開書簡が全国人民代表大会に提出された。同性愛者の人権と婚姻法の改正について検討するよう求めるものだ。
中国の同性愛者の人数に関して公式な統計はない。リー・インホーによると、国際的な調査が示す3~4%という数字を中国の人口に当てはめると、3,900万から5,200万人に及ぶ。
たとえそれだけの人数がいて、受容度が以前より高まっているとはいっても、自分の性的指向を、特に親に公表するのは難しい。かれらは長い時間をかけて慎重に準備し、事前にヒントを散りばめておく。
上海の女性Bao Baoは、将来、子供を持つことはおろか結婚もしないと母親に頻繁に言い聞かせた。
山東省の少年は、「美少年の恋」や「ブロークバック・マウンテン」といった同性愛がテーマの映画を母親に見せたり、同性愛の芸能人のゴシップを話題にしたりした。
浙江省出身のFeng Linは、大学で関わっていた社会活動について母親によく話していた。それは同性愛コミュニティの権利を守るための活動だった。
「3年かけて、告白のための足固めをしてきたんです。」
それでも全てが明らかになると、ほとんどの親はショックを受け、事実を受け止めることができない。Feng Linの母は言う。
「悪い冗談だと息子を非難しました。すると、息子は家を出ていってしまい、それで本気だと分かったんです。」
息子が家を出て最初の一週間、母親は悪戦苦闘した。
「自分の息子にこんなことが起こるなんて全く予想していませんでした。でも、息子を愛してる。彼を支えなきゃ。」
息子が同性愛に関する資料の山を抱えて家に戻ってくると、母親は夜を徹して全て読み通した。翌日、受け入れてみようと決意した。
「もう息子にいなくなってほしくなかった。彼の本当の人生を知る必要があったんです。」
最も困難な時期に大きな支えとなったのが、広州に拠点を置く親の会だった。その後、家族へこう告げた。
「私の息子を愛しているなら、女性を愛そうが男性を愛そうが受け入れてもらいます。それはできない、みっともないというなら、縁を切っても構いません。」
上海から来た母親Chili(仮名)は、息子が28歳の時、上海の習慣に従い結婚後の住居を購入していた。ガールフレンドを家に連れて来るよう言うと、予想外の答えが返ってきた。
「急に黙り込んだかと思うと、『母さん、僕が本当のことを言ったら傷付くよ。』って。私が思ったのは、離婚歴のある女性と付き合っているんだろうか? 子連れかもしれない、もしかしたら障害のある子供かも? 男性だとは全く思ってもみませんでした。」
彼女の最大の心配は、息子が年老いた時に世話をしてくれる子供がいないことだ。しかし、息子の視点に立って考えてみると、自分が周囲と違うと自覚するのはどんなに辛かっただろうか想像もつかないと言う。
「子供を愛しているなら、かれらの内なる世界を受け入れる必要があります。あなたが子供たちの心の中に入っていけば、かれらは心から幸せになれるんです。」
Bao Baoの母親も同意する。親の受容力は子供たちが想像する限界をはるかに超え得る。愛の力のなせる業だ、と。また彼女は、同性愛者を異性愛者と結婚させるのは、どちらの家にとっても不当で間違っている、親たちにはそんなことを承諾してほしくない、と語る。彼女はカンファレンスで娘のパートナーに相応しい女性を堂々と探し求めていた。
江蘇省の農村から来たDa Miは2年前、男が好きだと家族に話した。彼にとって驚きだったのは、同性愛について何も知らなかった農家の母親が支持してくれたことだ。
「僕は同志[中国語で同性愛者の意味]なんだと言ったら母には意味が通じず、そこでさらに同性愛者だと言ったら、それでもまだ途方に暮れていました。」
母親はその後、息子が性的指向と折り合いをつけるのに6年近くもかかったことを知った。
「彼の苦悩を感じることができました。私の甥が結婚した時のことですが、息子が突然泣き出したんです。その時は戸惑いましたが、今ならわかります。自分がなぜ他の人と同じように、結婚して家族のいる普通の人生を送れないのか考えていたんですね。」
最も辛かった時期、息子は自殺を考えていたという。
「息子の命より大切なものなんてありません。彼がどんな人になろうとも、いつだって受け入れると彼に約束しました。」
彼女の今の大きな役目は、頑なな夫に考えを変えるよう説得することだ。
50歳以上の大半の中国人には同性愛というものが意識にない。この世代の文化の一部ではなかったのだ。上海から来た母親Chiliも50代だ。
「息子が一度、インターネットの時代に生きている自分はなんて幸運かと言っていました。自分の『問題』に関する知識にアクセスでき、同じものを共有できる人たちをたくさん見つけられる。多分、私と同世代の人たちはこうした秘密を一人で抱え込んでいたんでしょうね。今の若者はラッキーです。今の時代は自分自身でいられるんです。」
しかし中には、今なお、同性愛は異国の芸術形態であるとか、肉体的、精神的疾患であると主張する親もいる。
上海出身の匿名男性は、父親にゲイだと告げると、すぐさま治療のため病院へ連れていかれた。
「父の最初の反応は、同性愛は外国人特有のもので、中国人は同性愛者になれないというものでした。それから、私のは性的な機能不全で、ゲイだというのは私の勘違いだと信じました。父は私を病院へ連れて行き、医者に性欲促進薬を処方してくれるよう頼んだんです。」
父親は何ヶ月もの間、毎日、息子が薬を飲むところを確認しているという。
「今のところ効果は出てないようですね。」
と彼はジョークを言うが、どうすれば自分は健康で、ただ他の人と違うだけなのだと納得してもらえるか悩んでいる。
重慶市から来た母親Sang Niは、娘の「間違った」性的指向の治療方法を求め、臨床心理士の元へ4年間、毎週通った。
「娘が女性しか愛せないなんて信じませんでした。心理士は娘を変えるのは難しいだろう、彼女の心構え次第だと言いました。」
4年以上通った結果は、母娘ともに深刻な鬱状態になっただけだった。それでも根気強い母親は諦めなかった。彼女は臨床心理士が力不足だったせいだと考え、重慶市にある公立病院、西南医院に助けを求めた。しかし、「病気なのは娘さんではなく、あなたですよ。」と言われてしまった。
「医師は同性愛は病気ではないと言いました。」と彼女は振り返る。
同じく重慶市から来た母親Xiao Liはかつて、街に同性愛の「治療」専門クリニックがあると知り、非常に興奮した。
「そこの『医者』は、私と娘の2人で診察に来るよう言いました。『治療』は3回のセッションで完了し、24,000元(約39万円)かかりました。」
医者は母親に、娘に強いプレッシャーをかけるよう言った。母親は指示に従い、親かガールフレンドかどちらか選ぶよう強要した。今となっては大いに後悔している。
「娘が最も私を必要としていた時に、私は彼女が望んだサポートを与える代わりに苦しめていたんです。」
《参考資料》
・中国4000万人の同性愛者 伝統観念や偏見、差別に苦悩 |MSN産経ニュース (2014)
・性的指向の「矯正術」に立ち上がる同性愛者、中国 |AFPBB News (2014)