ニュージャージー州で暮らすライターのトッド・グリーンウッドさんは3年前、当時17歳の娘さんからこんなメールを受け取りました。
"親愛なる父さん:
僕がなぜいつも猫背なのか、なぜブレスト・バインダー[胸の膨らみを抑えるための下着]を着ているのか、本当の理由を知りたがってたよね。"
(中略)
"僕はトランスジェンダーなんだ。4年生の頃からジェンダー的に人と違うと気づいてた。鮮明に覚えているのは、あるプロジェクトで男子のグループに入れられた時のこと。ものすごい安らぎと居心地の良さを感じた。自分と同じジェンダーの子たちと一緒にいたわけだから。"
(中略)
"GLBTQの友人たちからはセバスチャンって呼ばれてる。この名前は9年生で初めてカミングアウトした時から3年間使ってる。
背筋を伸ばさないのは、伸ばすと大嫌いな胸があるという事実が強調されるから。胸の膨らみをおもいきり抑えるブレスト・バインダーを着ている時でさえ、胸の隆起がはっきりわかる。"
トッドさんの中でいくつものピースが繋がっていきます。ミドルスクール(中学校)に入ってから多くのことが起きていました。
いつも猫背で、脊椎側彎症の検査も受けさせたこと。体のラインが出るような服を着たがらず、泳ぎにも行きたがらなかったこと。元気でおしゃべりだった娘が心を閉ざし、自傷行為にまで及んだこと。そして、奥さんが子供に「お父さんにも言わなきゃだめよ」と言っていたこと。
それでも、隣の部屋から送信されてきたメールは、やはりショックでした。
そのメールで初めて自分の息子、セバスチャンと出会った。その日、セブ[セバスチャンの愛称]に返信し、愛していること、そして話を飲み込み理解するにはしばらく時間がかかるだろうことを伝えた。これほど困難なことはそう経験したことがなく、どちらも心からの言葉だった。
子供の名前をアナからセバスチャンに呼び変えるよう自分を再訓練するのは比較的簡単だった。それより難しかったのは「代名詞セラピー」だ。2年前、彼を大学に送る道すがら、うっかり人称代名詞を間違えるたびに「彼!彼!」と叱責を受けた。どうやら、代名詞の方がファーストネームよりも脳に深く固定されているようだ。
トッドさんにとって、同性愛や両性愛ならどんなものか想像しやすいのですが、自分が間違った体に生まれてきたという感覚は非常に難しいものです。トランスジェンダーについての基本的なことは学んだものの、問題の複雑さを知るばかりで、本当の意味での理解とは言えないと言います。
トッドさんをさらに混乱させたのは、セバスチャンの最初の恋人が、彼と同じく男性として生きているトランスジェンダーだったことでした。
2人が初めてうちに泊まりにきた時、彼らはセブの寝室で一緒に眠った。私は気づくと閉ざされたドアにチラッと目をやっていて、そんな自分と、まるでマンガのキャラクターのように格闘した。
「[この状況は]男2人なのか?女2人なのか?」
父親としての私には、事前に用意された台本に当てはめるのが困難だった。父親というのは娘とセックスについて話すことにはなっていないし、息子との会話といっても、「彼女を妊娠させるなよ」くらいのものだ。セブとそのパートナーとなると、もうどうしていいか分からなかった。
また、近所付き合いも難しいものとなりました。トッドさん夫妻は、子供の成長を見届けてきた友人や近所の人々に何年もかけて話をしてきました。
「お嬢さんの大学生活はどう?」
薬局でのこんな立ち話にどう正直に答えたらよいのだろう? 時には代名詞を避け、「上手くやってますよ。どうも。」と答える。また時には、30分におよぶ会話を力強いハグで終えることもある。
娘が息子になるのはどんな感じか聞かれると、私は簡潔に「楽になってきてるよ。」と答える。3年前は、決して会うことのない成人した娘を思い、車の中で泣いていた。手術のことを考えると嫌悪感と恐怖でいっぱいになった。私には新しい概念であり、うちの子はなぜだか知らないが、ウソをついているだけなんじゃないかと考えたりした。
しかし、トランスジェンダーの若者の大半が苦しんでいることを学んだ。自殺企図[attempt suicide. 自殺未遂?]の割合は、人口全体では2%未満なのに対し、トランスジェンダーでは41%ほどにもなる(※)。かれらは持って生まれた肉体の牢獄から逃れる術がないと感じている。家族から拒絶され、多くの者が安全な場所を持てずにいる。セブについて考えるときは、いつもこうした事実を思い出すようにした。
※(PDF)National Transgender Discrimination Survey Report on health and health care |National Center for Transgender Equality
セバスチャンは大学一年目を男性として送り、去年の夏には名前を正式に変更して、男性ホルモンの投与を開始。そして最近、乳房切除手術を受けました。
私が気にかけているのは、子供の健康と幸せだけだ。先月、セブが乳房除去手術を受けた後、私は回復室に立ち、安堵とともに息子の勇敢さに深い誇りを抱いていた。彼が胸を締め付けていた6年間は過ぎ、今こそ、前を見据え、肩を引き、胸を張って歩けるだろう。My Trans Son: Standing Tall |The Huffington Post
《関連資料》
・トッドさんのハフィントンポストでの執筆記事一覧
・我がトランスの子どもたち |NPO法人LGBTの家族と友人をつなぐ会
・一般社団法人gid.jp 日本性同一性障害と共に生きる人々の会