2014年10月26日日曜日

中国の同性愛者たちの「ママ」、呉幼堅

中国国旗の画像
以前、「中国 同性愛の子の親たちが語る悲嘆と喜び」というブログ記事を書くためにいろいろ調べていたところ、ウー・ユージエン(吴幼坚/呉幼堅/Wu Youjian)という名前を何度も目にしたので、少し調べてみました。かなり断片的です。

ウーさんは現在60代後半。広東省広州市で暮らしている元雑誌編集者です。ゲイの息子の母親として、同性愛者やその家族を支援する活動を続けています。

1999年、当時10代だった息子さんからゲイだと告げられますが、ウーさんは落ち着いて受け止めました。
「私は編集者でしたから同性愛に関する記事をたくさん読んでいました。それに、自分自身を敬って生きていくことが大切だと考えています。」[*3]
「息子には、男の子を好きになるのは悪いことではないし大した問題ではないと言いました。」[*2]

息子のZheng Yuantaoさんにとっても、比較的カミングアウトしやすい家庭環境だったようです。
「ゲイの友人の多くが休暇に帰省するのを嫌がります。親からガールフレンドのことを聞かれたり結婚を急かされたりするからです。」
「私はとても開放的な家庭で育ちました。自分のセクシュアリティのことではそれほど苦しみませんでした。」[*2]

2004年、息子さんは地元のテレビ番組にゲイとして出演します。中国のテレビ番組でゲイだと公表したのは彼が初めてなのだそう。
翌年、ウーさんもゲイの母親としてメディアに登場します。同性愛の子供への支援を公表した親も彼女が初めてだそうです。

その後、ウーさんはパソコンの使い方を学び、LGBTに関するブログ「三色堇吴幼坚」を始めます。約8年間で2000をこえるブログ記事は、今では重要なオンライン資料となっているそうです。

同じ境遇の親たちがウーさんのもとに集まるようになり、2008年にはホットラインを開設。また、中国本土初の家族会「同性恋亲友会(同性恋親友会)」(英語名 PFLAG China)も設立しました。
2010年には、エッセイ「愛是最美的彩虹」(愛は最も美しい虹)を出版。大学や企業での講演も始めました。
2012年には中国のTEDxでプレゼンテーションも行っています。
20120428珠海TEDxUIC“CRUSH”(悸动)吴幼坚演讲_自编 |Youku (中国語音声・字幕なし)

そのほかにも微博(ウェイボー。中国版ツイッター)で頻繁につぶやいたり、中国全土の親たちから届くメールや電話相談に応じたり、国内を巡り家族会の会合を開いたりと、精力的に活動しています。
メディアからは中国でも指折りの「同性愛の人権活動家」と呼ばれているが、ウー自身には、少なくとも今のところ、大きなゴールはないと言う。
「私たちはまだ中国で同性愛者の権利に取り組む段階にありません。でも今は人々や家族を助けるために、私にできることをやっているんです。」[*1]

ネット上にはウーさん親子への誹謗中傷が書き込まれることもありますが、ウーさんは気にしていません。息子さんは言います。
「母がどれだけ多くの人を変えられるか、ということではないんです。重要なのは母が毎日、目の前にいる人の力になっていることです。」[*2]

しかし、ウーさんの言葉に慰められる親ばかりではありません。
「一番腹立たしいのは、『子供は家の体面を守るために犠牲となって性的指向を変えるべきだ』と話す親がいることです。私はその人たちに『あなたの世間体がお子さんの幸せよりも大事なんですか?』と聞くんです。」[*1]

中国の親たちの障害となっているのは社会的圧力だとウーさんは考えています。情報も十分ではなく誰にも相談できずにいることで、子供を受け入れる段階まで深く考え抜くことができずにいると言います。
彼女には中国の全ての親に向けた4つのアドバイスがある。
「同性愛の子供がいるのは悪いことではない。同性愛の子供がいるのは見苦しいことではない。同性愛の子供がいるのは間違いではない。同性愛の子供がいるのは何てことはない。あなたがそう捉えれば。」

「主流メディアが態度を変え、同性愛に関する知識が増えれば、親たちは違う視点からの見方を学べ、我が子を受け入れられるのです。」[*1]

ウーさんは多くの同性愛者を導き、かれらの親たちを励ましてきました。中国の同性愛者たちからは親しみを込めて「妈妈吴(ママ・ウー)」と呼ばれています。
ある母親は彼女に手紙を書いた。
「あなたには大変感謝しています!息子さんはあなたのもとを離れて北京にいますから、私の息子を自分の子だと思ってください。何か必要なことがあれば遠慮なく彼に連絡してください。」

[中略]

彼女の息子は現在、付き合って6年になるパートナーと北京で暮らしている。
「私には子供は一人しかいませんが、たくさんの人が『母』と呼んでくれます。」
「女の子でも男の子でもいいんです。左利きでも右利きでも、同性愛でも異性愛でも。みんなわが子のように接しています。」[*3]

*1. ‘Being gay in China is not a bad thing’ |CNN (2010)
*2. 'Mama Wu' unlikely hero for homosexuals in China |CNN (2010)
*3. Wu Youjian: Mother of China's LGBT Community |Women of China (2012)

《関連動画》
ウーさんを紹介する2011年のウェブ番組。中国語と英語の字幕。
Sharing Rainbow Stories with Wu Mama 和吴妈妈一起分享彩虹的故事 |YouTube

同性愛の子供がいる母親たちを取材した2012年のドキュメンタリー。
18分40秒あたりからウーさんも登場します。中国語と英語の字幕。
Mama Rainbow 彩虹伴我心 |YouYube

《関連資料》
中国4000万人の同性愛者 伝統観念や偏見、差別に苦悩 |MSN産経ニュース (2014)

《ブログ内関連ページ》
中国 同性愛の子の親たちが語る悲嘆と喜び