2014年9月28日日曜日

夫は妻は同性愛者 - 孤立する異性愛配偶者たち

ベンチに並んで座る男女の画像
夫や妻が同性愛者だった、という話は「偽装」や「裏切り」といったイメージでスキャンダラスに語られがちです。本当に必要な情報やサポートが提供されることはほとんどなく、多くの夫婦が人知れず苦しんでいるといいます。

性のかたちに気づくことの難しさ

自分の性的指向や性自認をいつ、どのように自覚するかは個人差が大きいようです。
精神科医のジャック・ドレシャー(Jack Drescher, M.D.)は言います。
「多くの人が、結婚した時点では自分が同性愛者かどうか分かっていません。かれらは結婚が自分の混乱を終わらせてくれる、あるいは結婚することで同性への興味も弱まっていく、と考えています。」[*1]
*1. Married and Coming Out |Divorce360 (2008)

たとえば、このYouTubeの男性は、アルコール依存と向き合う中で自分がゲイであること、それをお酒の力で紛らしていたことに気づいたと言います。
この記事の男性は21歳の時、同性に対する欲求に苦しみセラピストに相談しますが、一時的な衝動に過ぎないと言われ、信じました。
こちらのトランスジェンダー女性は、忙しい日々の中で心の声を隅に追いやってきたものの、子供も巣立ち自分の時間が持てるようになったことで、女性としての自分に向き合わざるを得なくなったと言います。

ドレシャーによると何年にもわたってアイデンティティ・クライシスに苦しむ人もいます。自分の性のあり方を認めたとしても、自分と家族の間でどうあるべきか悩みは続きます。そして、これ以上隠してはおけないとカミングアウトする人もいます。[*1]


型にはまらないセクシュアリティ

心理療法士のジョー・コート(Joe Kort, Ph.D.)によると、異性愛男性で同性に性的に魅かれることのある人も珍しくないそうです。
性的な経験の有無やパソコンの履歴などからゲイやバイセクシュアルだと決めつけられがちですが、彼らはゲイでも「ゲイだと認めたくない人」でもなく、バイセクシュアルともまた違うようです。しかし、こうした性のあり方は理解されていないと言います。
Why Some Straight Men Are Romantically or Sexually Attracted to Other Men |The Huffington Post (2013)


異性愛配偶者への支援

結婚する理由は人によってさまざまですが、やはり恋愛感情を前提としたパートナーシップという認識が主流でしょう。結婚相手が異性に性的に魅かれない、あるいは相手が性別移行して同性になる(*)と知ると、多くの配偶者は押し寄せるさまざまな感情に苦しみ、回復には長い年月を要します。相手の浮気が発覚した場合はさらに傷は深くなりますし、自分の存在意義そのものを見失い、自殺を考えるほど深刻な状況に追い込まれる人もいます。
* 性自認と性的指向は別なので、トランスジェンダーの場合は、配偶者が恋愛対象であることに変わりはない、というケースもあります。

こうした異性愛配偶者(Straight Spouse)や、性的指向が異なる者同士の結婚(Mixed-orientation marriage)を長年サポートしてきたのが、アメリカの非営利団体「Straight Spouse Network」です。
Straight Spouse NetworkはもともとPFLAG(性的少数者の家族らを支援する団体)内のグループとして1986年に組織され、その後、独立しました。7000人以上の会員がいて、アメリカ以外にも7カ国に支部があります。

設立者のアミティ・ピアース・バクストン(Amity Pierce Buxton, Ph.D)も25年連れ添った元夫がゲイでした。
「それを聞いた時ほっとしました。一体何が良くなかったのか、なぜ彼が結婚生活の間よそよそしく、憂鬱だったのか分かったからです」[*1]


離婚率の高さとその傾向

これまで2万5千人の配偶者と接し、10の調査研究を発表してきたバクストンによると、こうした夫婦の3分の1は1年以内に別れ、もう3分の1はしばらくは一緒にいますが、いずれは別れます。
残りの3分の1は結婚生活を維持しようと努力しますが、3年以上続くのはその内の半分だけです。結婚が続くケースは、経済的な理由や子供のために別れられないのではなく、お互いが夫婦でいることを楽しんでいるのだといいます。[*1]

相手がバイセクシュアルの場合は性的な不一致はないのですが、バイセクシュアルへの誤解などから同性愛の場合と同じように配偶者は苦しみます。しかし、そこを乗り越えると異性愛者同士の夫婦よりも強い絆を結ぶそうです。
Not All 'Straight Spouses' Are Straight: Bisexual Spouses in Mixed-Orientation Marriages |The Huffington Post (2012)

妻がレズビアンの場合は、カミングアウト後、短期間で出て行くことが多いそうです。
また、トランスジェンダーに関する調査はほとんど無いようです。
結婚生活の危機と破綻 |NPO法人 LGBTの家族と友人をつなぐ会


知られざるLGBT嫌悪の犠牲者

バクストンは、LGBTが押し込められている「クローゼット(ウィキペディア)」の奥深くに、異性愛配偶者もまた押し込められていると指摘します。
アメリカ版ハフィントンポストに掲載されたバクストンの記事から少し紹介します。

'Collateral Damage' in the LGBT Community: Straight Spouses, Still in the Darkest Corner of the Closet |The Huffington Post (2012)
離婚したLGBTのパートナーが偽りのない人生を踏み出す一方で、異性愛配偶者はショックの中に取り残され、アイデンティティや整合性、信念体系は打ち砕かれる。
LGBTだと明らかにしたパートナーにスポットライトが当たるなか、かれらの妻や夫を思う部外者は少ない。「かれらは異性愛者だ! 正常(ノーマル)なんだから問題ない」というわけだ。

こうした結婚は決して過去の話ではありません。Straight Spouse Networkには今でも相談の電話が1日あたり3〜5件かかってきます。年齢も20代から80代までと幅広く、誰もが自分一人ではないと知って驚くそうです。
さらに重要なことに、この広範囲の損害を引き起こしているのが、異性婚のみを推進する反同性婚の信念であることに社会が気づいていない。私たちの社会の反同性愛、反トランス、異性愛推進といった要因がこうした結婚を引き起こし、異性愛配偶者を傷つけているのだ。これを「コラテラル・ダメージ(巻き添え被害)」と呼ぶ者もいる。

夫や妻がLGBTだと知ると、かれらが地域や職場、教会から拒絶されないよう、また、子供たちがいじめにあわないように、異性愛配偶者は「秘密」を抱え込んでしまいます。
パートナーが自らLGBTであることを公にすれば、その勇気を正当に称賛されるが、その一方で異性愛の元配偶者は忘れ去られる。秘密を抱え込んだまま、あるいは、ないがしろにされたと感じながら、かれら自身のクローゼットに閉じこもる。誰の目にも留まることはない。
中にはStraight Spouse Networkを通じて仲間のサポートを見つける人もいますが、知識のある専門家から助力を得られる人はわずかです。

バクストンは異性愛配偶者の姿を伝えるため本の出版なども行っています。
LGBTひとりひとりの物語が多くのアメリカ人の心を開いてきたように、孤軍奮闘せざるを得なかった異性愛配偶者たちの物語が多くの人の心を開くよう願っていると言います。
私たちが知って欲しいのは、知らないうちに結婚相手のクローゼットの中にいたことへの怒り。自分の知る結婚が幻だったという不信。対処するだけの強さを持てないという恐れ。子供たちが苦しむことへの不安。そして、手にしたと思っていたものを手放す悲しみだ。

良いニュースは、ほとんどの配偶者が徐々に、意気揚々とした自信を持つようになることだ。相手がなぜ自分と結婚したのか理解するようになり、私のようにLGBTの平等を目指す活動家になる者も少なくない。
悪いニュースは、こうしたつらい旅の根底にある社会的要因は存続し、私たちが変えない限り、悲痛な物語は語り続けられるということだ。

《関連リンク》
ストレート(ストレート支援ネットワーク)
異性愛配偶者の貴方へ:連れ合いはLGBT |NPO法人 LGBTの家族と友人をつなぐ会

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