きっかけは、芸能ニュースなどを扱うTechinsightというサイトのこの記事です。
・【海外発!Breaking News】教育省が4歳児の「性転換手術支持」を表明 猛烈な批判を浴びる(豪)|Techinsight Japan (9月22日)
この記事は他のニュースサイトなどにも転載されています。
これが事実ならもっと騒動になっていると思うので、きっとどこかで「医療的な性別移行」と「社会的な性別移行」の混同が起きていると推測しました。
そこで、上記記事の出典を確認してみました。Inquisitrというニュースサイトのこの記事です。
・4-Year-Old Approved For Sex Change, Gender Reassignment Operation To Be Conducted In Australia | The Inquisitr News (9月3日)
ここではタイトルに「Gender Reassignment Operation(性別適合手術)」の文字があり、文中には「surgery(手術)」という単語が4回も出てきて、確かに手術の話になっています。
詳しく見比べてはいませんが、Techinsightの日本語記事はこの記事に独自の(過去記事の)情報を加えて構成されているようです。
さらに追跡してみます。
Inquisitrの記事も独自取材ではなく、「元ネタ」へのリンクが2つ張られています。イギリスのデイリー・メールとメトロの記事です。
どちらにも「sex change(性転換、性別変更)」の文字はあるものの、「surgery(手術)」とは書かれていません。
・Child aged four begins SEX CHANGE before first day of kindergarten and becomes one of Australia's youngest to transition | Daily Mail Online (8月31日)
・Four-year-old to undergo sex change in Australia | Metro (9月1日)
この話題を取り上げているネット記事はいくつもありますが、さかのぼっていくと、上記2つの記事も含め、どれもオーストラリアのデイリー・テレグラフの記事にたどり着きます。この記事には「surgery」も「sex change」も出てきません。
・Preschooler begins transition aged four: Children as young as three claiming gender dysphoria | Daily Telegraph (8月31日)
この記事の内容を簡単に紹介します。
(ただ、ここからも誤読や誤訳が生じている可能性があります。当然ですが原文にあたることをお勧めします)
ことの発端は、オーストラリア、ニューサウスウェールズ州議会での発言です。予算委員会のような場で、教育省(Education Department)の「Safe Schools」というプログラムが審議対象になったようです。
記事には「Safe Schools」の説明はありませんが、オーストラリアには「Safe Schools Coalition Australia」という大きな団体があり、性的マイノリティの生徒にとって学校が安全な場所になるよう活動しています。ここで指摘されている「the Safe Schools program」も、それかもしれません。
教育省の担当者はSafe Schoolsプログラムの必要性をこう訴えました。
“We have a number of students who are going through gender transition in our schools, with the youngest being a four-year-old at the moment,” he said.かいつまんで言うと、「州内の学校にはジェンダー移行中の生徒がある程度いる。現時点での最年少は4歳で、来年の幼稚園入園に向けて移行している。Safe Schoolsプログラムは、移行中の子供を受け入れる家族や生徒、学校を支えるための貴重なリソースだ」
“Without breaching privacy, we have a four-year-old who is transitioning to kindergarten next year who has identified as transgender.
“The Safe Schools is only one resource that can be used from a variety of resources in how we would support that family, student and school to accommodate a child going through transition.”
…と、記事に書かれている事実はこれくらいです。4歳児の出生時の性別は明らかになっていません。これが巡り巡って「教育省が4歳児の性転換手術を支持」になったようです。
ちなみに、ここで言うジェンダー移行というのは、服装や呼び名などを変え、学校や地域社会のなかで本人が望む性別の人として暮らすということです。投薬や手術などは行いません。
記事の後半は、4歳でのジェンダー移行について5人に話を聞いています。コメントの内容を要約します。
■地元のレズビアンの牧師、Susan Palmer。
・私が出会った性別移行した人たちは、非常に幼い頃から精神と体が一致しないような違和感を感じていたと語るので、ありえる話だとは思う。
・だが子供にとって本当に大切なのは、自己探求の自由が与えられること。周りの大人がどちらか一方の性別に閉じ込めたり押しやったりするのはよくない。
■オーストラリア国防軍の大佐でトランスジェンダーのCatherine McGregor。
・私の経験から言えば、別のジェンダーに強く自分を重ね合わせる子は、自分のことをちゃんと理解している場合が多い。しかし、この段階で決断を下すことに対して医療従事者たちが警戒するのも理解できる。
・早まって間違いが起きないよう適切な検査を行う必要がある。
■児童心理学者のMichael Carr-Gregg。
・メルボルンにある「ロイヤル・チルドレンズ・ホスピタル」の〈性別違和〉科では250人の子供(下は3歳児から)がサポートを受けているが、10年前は子供の「患者」は1人しかいなかった。
・間違った体で生まれてきたという感覚を持つ子供は確かにいて、推定で最大2.7%の子供たちが当てはまる。
・彼らはいじめに苦しんだり自殺率が高いなどのデータがある。
・異性の服を着ることと、自分が間違った体にいると信じることは大きく異なる。
・こうした子供は思いやりと共感でうまくやっていけるし、幸せな人生を送れる。
■臨床心理士のRose Cantali。
・4歳でジェンダーを変えるのは、まったくもって早すぎる。
・非常に気が進まないし、他の心理学者も同じように言うだろう。この年齢ではすべてが発達途上だ。
■婦人科医でトランスジェンダーのRosemary Jones。
・4歳は「いい年齢」だし、分別ある親ならちゃんと選べる。
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