年末に、アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットの8歳になる娘、シャイロのスーツ姿が話題になりました。
シャイロが男の子っぽいものばかり好むのは幼い頃から知られていて、また、自分を男の子だと思っている気配もうかがわせるため、彼女の性自認にも注目が集まっています。(※2)
そんな中、イギリスのテレグラフ紙が、トランスジェンダーや性同一性障害(※3)のように見える子供をどう育てればいいのか、専門家に取材しているので簡単に紹介します。
こうした子供への対応は専門家の間でも意見が分かれるようです。さまざまな新聞記事のひとつとしてご覧ください。
Angelina Jolie's daughter 'wants to be called John'. How should parents react to children questioning gender roles? |The Telegraph (2014)
家族の影響?
『きょうだいの暗号』(徳間書店/2011)の著者で臨床心理士のリンダ・ブレア(Linda Blair)によると、幼い子供が異性のように振る舞うのには様々な可能性が考えられるので、結論を急がず過剰反応しないことが重要だそうです。たとえば家族の影響が考えられるといいます。兄弟姉妹、特に兄や姉(年上の異性)がいる場合、まねをしたがったり彼らのようになりたいと思うのは、至って正常な段階だといいます。
また大家族の中間子の場合、注目してもらいたがっているという可能性もあるそうです。
性別の探究?
3〜6歳(子供によってはその後も)は、「男女」や「ママとパパ」といった概念に夢中になる時期。子供にとっては性別もまた成長過程における実験対象のひとつなのだそう。しかし問題は大人の反応の方だといいます。「男である、女であるというのがどういうことか探究するのも、全く正常なことです。しかし問題は、私たちがそうした探究を何世代にもわたり抑圧してきて、いまだ気まずく感じるということです。ですが、人は自分が何者でないかを知って初めて、自分自身になれるのです。」
多くの大人が特に不安を覚えるのは、男の子が女の子のように振る舞うケースです。
こうした子供を持つ家族のための支援グループ「Mermaids」によると、親からの電話の大半が息子を心配する相談です。(※1)
「おそらく、標準的なジェンダーとは異なる(gender-variant)振る舞いが男児に多く見られるというわけではなく、バービーで遊ぶ男児に比べ、おてんばな女児はさほど心配されないからでしょう。」
大切なのは見守ること
周囲の大人が問題視するのは子供にとってひどく有害な場合があるため、親は受け入れる努力が必要だとブレアは考えています。「『娘はジーンズばっかり履いて、ちっとも女の子らしくしないんです』とか、『息子はスカートをはくんです』と言う親に対する私の反応は、見守って、受け入れて、見届けなさい、です。」
「注目を浴びるための行動であれば、いずれなくなります。探究ならば、[見守ることは]それを許可することになります。本質的なものであった場合、彼らが気持ちを確かめるのに必要な時間を与えていることになります。」
トランスジェンダーという可能性は?
将来、トランスジェンダーと認識したり、性同一性障害(※3)と診断される可能性もないわけではありません。その兆候が何年も続くようならば医者に相談した方がいいけれど、思春期前の子供を誰かに診せる本当の必要性はない、とブレアは言います。
「温かく受け入れて、行く末を見守ればいいと思います。結論を出す必要はありませんし、恐れる必要もありません。本当に緩やかなプロセスですから。」
(中略)
「最悪なのは急ぐことです。これは非常に重大な決断なんです。」
一方、性別違和を抱える人向けの医療機関「North-East Gender Dysphoria Service」の性心理セラピストAdy Davisは、NHS(イギリス国営の国民保健サービス)のサイトでこう提案しています。(※1)
「もし、お子さんが反対の性別に非常に強く自分を重ね合わせ、子供や家族に苦しみをもたらすほどであるなら、助けを求めてください。若者や子供の苦悩のサインとしては、自傷行為や破壊行動、うつが挙げられます。」
子供の訴える違和感が一時的なものかどうかを判断できるような、決定的な兆候はないそうです。
たとえ大人になって違和感が続いたとしても、外科的な手術を選ぶとは限りません。異性装で落ち着く人や、抗ホルモン剤の投与だけでいいという人もいるようです。
だからこそ、幼い時期に親が本当にできることは、子供のありのままを受け入れることだけだ、とブレアは強調しています。
※1:Worried about your child? |NHS Choices(リンク切れ)
上記記事は、このNHSの記事を参考にしているようです。どちらを紹介するか迷ったのですが、こちらもごく簡単に抜粋してしまいます。
・5歳未満の子は、服や遊びと性別とを結びつける発想があまりない。
・もっと年長の児童でも反対の性別に自分を重ね合わせることは珍しくない。
・大人になって反対の性別で生きることはまれ。大抵は成長とともに(特に思春期を迎えると)消えて行く。
・違和感が続くケースもさまざま。男女どちらにも属さないと感じたり、性別がないと感じる人もいる。日常的に、または時折、異性の服を着ればいいという人もいる。
・強い不快感が長く続く子にとって第二次性徴期はつらい時期。そういう子には思春期前に援助を見つけた方がいい。必要ならば学校などにも協力してもらい、慎重に準備する。
・青少年のメンタルヘルスに詳しい医者に相談する。全ての医者が性別違和に詳しいわけではないので専門的な情報を探す。
・親から愛されなくなることを恐れる子もいる。何があろうと味方だと伝えることが大切。
・自分を責める親もいるが、あなたのせいではない。不安に感じるのもあなたひとりではない。同じような経験を持つ親と話をするといい。
・学校でいじめられていたら、いじめに関する情報を集め対策する。
※2:上記記事をはじめ、シャイロをジョンと表記している記事もあります。これは2008年にブラッド・ピットが語った、「シャイロはピーターパンに夢中で、ピーターかジョンと呼ばないと返事をしない」というエピソードからきているようです。
これだけだと「ごっこ遊び」のようにも聞こえますし、今現在どう呼んでいるのか、呼ばれたがっているのか不明なので、シャイロと表記しました。
《参照》 Here’s What Brad Pitt Really Said About His Daughter Shiloh ‘John’ Pitt |Social News Daily
※3 “性同一性障害は、トランスジェンダーのなかでも、「医療を必要とする人たち」を指した医学的な概念”
セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編 |シノドス
こちらの本からも引用します。
子ども期における性役割の違いで顕著なものに, 男女の境界を超える際の容易さがある. 女児が男の子的な行動をとることは容認されやすいが, 男児が女の子的な行動をとることは仲間の男児や大人からの嘲りや拒否を呼び起こしやすい. 男児は生後12カ月にして大人からこうしたプレッシャーを受けることが報告されている. 性別に非典型的な遊びの好みやごっこ遊び(男児がままごとで母親役を演じるなど)を好んでいた子どもは, 将来は両性愛・同性愛の性的指向を持つようになる可能性が高い. 成長後にいわゆる「性同一性障害(自らの身体的性の特徴に対する不適合感がある)」を示すのはその中でもごく一部である. 多くは男性もしくは女性としてのアイデンティティを保ちながら, 性的指向や異性装などでバリエーションを示すことになる.
(坂口菊恵)
『性教育学』朝倉書店 2012 p24
《参考リンク》
・[文献]子どもの性同一性障害を考える |Anno Job Log
・[本][文献]自分の性に違和感がある――――[性同一性障害]|Anno Job Log
・子どもの性同一性障害 ~揺れる教育現場~ |NHKオンライン