2020年4月3日金曜日

[体験談]トランスジェンダーの娘と妻のおかげでようやく自分の体が好きになれました

文字画像「体験談」
トランスジェンダーの子を持つ母親の体験談を読んでいると、息子が娘へと変わっていく過程で「女性であること」や「女性の美しさ」について考えさせられた、と語る人がいます。
今回はアメリカの司会者オプラ・ウィンフリーが手掛ける女性誌からエッセイを紹介します。

カナダの首都オタワで暮らすアマンダ・ジェテ・ノックス(Amanda Jetté Knox)さんには3人の子供がいて、真ん中の息子から自分は女の子だと告げられました。子供だけではありません。その翌年、子供のカミングアウトに触発された夫が「私も女だ」と言ってきました。最初は相当大変な思いをしたようですが、その後も結婚生活を続け、2017年には結婚20周年を迎えました。
How a husband and wife came to love each other more as wife and wife | CBC Radio (2017)
What Amanda Jetté Knox learned from raising her transgender child | CBC Radio (2019)

アマンダさんはこうした体験を「Love Lives Here: A Story of Thriving in a Transgender Family」という本にまとめたほか、ライターや人権活動家としてさまざまなサイトで執筆しています。

My Trans Wife and Daughter Taught Me How to Finally Love My Body | Oprah Magazine (2019)
最初の子供が生まれてから滅多にできなくなっていた夜のお出かけをした時のことだ。繁華街で女性が車窓から私に向かって大声を上げてきた。女性は「デブ牛!」と叫ぶと頭をのけぞらせて笑った。私はパートナーと友人に挟まれて立ち、ぼう然としていた。私は20代前半、一番体重があった時期で、女性の言葉は私を直撃した。まるでストレッチマークの付いたお腹にレンガが投げつけられたようだった。

数週間後、幼い息子を初めてビーチに連れて行き、砂に足を取られる息子のバランスを取るため手を握っていた。近くでは大学生くらいの年頃の男性2人が日焼けをしていた。そのうちの1人が私を見つめて大声で言った「見ろよ、砂浜にクジラが打ち上がったぞ」。私は聞こえないふりをして目をそらした。 

アマンダさんの人生にはこうした出来事が「染みついている」といいます。そのため自分の体を嫌悪し、自分を恥じながら生きてきました。
それを変えるきっかけとなったのが、今は娘となったアレクシスでした。アレクシスは何年にもわたるうつや不安、孤立感に苦しんだ後、記事掲載時から5年前の11歳の時に「私は男の子の体に閉じ込められた女の子だ」と告げてきました。

アマンダさん夫婦はすぐに子供を支えようしましたが、トランスジェンダーについて検索してみて不安に襲われます。出てくる話は、いじめや暴力被害、自殺未遂率の高さ、メンタルヘルスの問題など暗い現実ばかりだったからです。
私の頭はこの新しい情報の海で溺れないよう泳ぎ続けた。何年もの間、明らかに苦しむこの子をどうやって助ければいいかわからなかった。しかし今、娘はようやく自分を傷つけているものが何なのか説明できたのだ。娘がたくましく成長し自分への愛を学べるよう、今度は私が力になる番だった。だがまずは同じ教訓を自分自身に教えなければならなかった。

アマンダさんは自信とは無縁の人生を送ってきました。鏡を避け、家族写真に写り込むのも避け、服を買うのも恐怖でした。ジム通いを試したこともありましたが、「代謝のいい人々に支配された」ジムでは、自分は周りの人の「ビフォー写真」でしかないような劣等感にさいなまれ、他の人から隠れるように利用していました。そんな自分が娘に自分自身の愛し方を教えられるとは思えませんでした。
ひどい話だが、悪口を言われたりビーチで体形を非難されたりすることなんて、娘が人生のなかで直面するかもしれないことと比べたら大したことはないのだ。世界中から何を投げつけられようとも無条件に自分を愛そうだなんて、どうやって教えればいいのだろう? 唯一の方法は自ら手本を示すことしかなく、私自身も自分への無条件の愛を学ばなければならなかった。

アマンダさんがとった方法は、深く傷ついた誰かを救う時のように、自分自身に対して思いやりや忍耐を持って接することでした。
ネガティブな独り言もなし、罪悪感もなし、不可能なほど厳しいルールは課さず、同時に自分を見限ることもやめた。
そうやって食生活や運動と慎重に向き合ううち、食べることへの罪悪感から初めて解放され、運動そのものを楽しめるようになっていったといいます。

そして自分の体への嫌悪感から解放される決定打となったのが、18年連れ添った夫からのカミングアウトでした。
夫は今では女性として生き、アマンダさんも妻と呼んでいます。妻のゾーイはスタイルもファッションセンスもよく、男性として暮らしていた頃より笑顔も増えて生き生きとしてきました。アマンダさんもこれまでの夫には感じたことのなかった魅力を感じているといいます。

しかしゾーイは今も女性として十分ではないと感じて苦しむことがあります。アマンダさんは性別違和の苦しみの深さを間近で見ながら、それでもなお自分の人生を堂々と生きる妻と娘に励まされ、美しさに対する考えも変わっていきました。
美しさは服のサイズで測るべきだろうか、それとも芯の強さで測るべきだろうか? 完璧な肌は心からの笑顔よりも魅力的なのだろうか? 誰かが人の有りようを非難する時、醜いのは非難される側ではなく非難する側ではないのか?

アレクシスとゾーイは美の本当の姿を見せてくれた。それは強さであり、しなやかさであり、真実味だ。メディアに教え込まれたものではなく、世界がいま私に見せてくれている美しさだ。2人は私の目を開き、力を与えてくれた。

2人のおかげで私は自己嫌悪の最後の一本を根元から抜き去り、自信の根を下ろすことができたのだ。

記事掲載時42歳のアマンダさんは身体的にも健康で、何よりようやく自分の体を好きだと思えるようになりました。ジムでは今でも体が大きいほうですが、常連客として堂々と過ごしています。運動を楽しめるようになってからはウェイト・トレーニングが得意だと気づきました。今ではクラスの誰よりも重いウェイトを持ち上げられることが自慢です。自分のなかの不安に打ち勝ったおかげで手にできた成果だからです。
私たちの社会の非現実的な美しさの基準は、私たち全員が受け入れて初めて基準となる。私たちが異議を申し立てれば、拡げていけば、変えられるのだ。

我が家の3人の女性は自分たちなりにこうした基準に挑んでいるのだと思いたい。娘は生涯にわたり自分が何者かを隠す必要なく成長していく。あまりに長く隠れていることに疲れた妻は、毎朝目を覚まし、本当の自分を生きている。2人は私たち全員にとってのお手本だ。

では私はどうか? 私はジムのクラスの最前列でヘビーリフテイングをして汗をかき、鏡に映る姿を愛している。私を傷つけようだなんて思う人が気の毒だ。私はこの社会が考えるビフォー・アフターの「アフター写真」を作り直している最中で、それを誇らしく思っている。

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アマンダさんの家族を取り上げたドキュメント動画。
2016年。約3分半。英語音声。
家族からトランスジェンダーだと告げられた人へのアドバイスとして、アマンダさんがこんなことを語っています。
...and also honor your own feelings. Because if you don't honor your own feelings, you're not going to be able to support their feelings.
あなた自身の気持ちを大事にしてください。自分の気持ちを大事にしなければ相手の気持ちだってサポートできなくなりますから。


《余談》
メディアなどでは、配偶者からカミングアウトされた人が「今も夫婦として仲良く暮らしています」「元夫の新しい人生を応援します」と語るケースが美談として語られがちです。そのため「相手を応援できない私はダメな妻/夫だ」と自己嫌悪に陥る人もいるようですが、決してそんなことはないと思います。

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