今回は、回答よりも相談者の文面にひかれて取り上げました。思わぬ状況に置かれた妻の複雑な気持ちが短い文章から垣間見えます。
掲載されたのはアメリカのオンライン雑誌『Slate』の相談コーナーで、回答者はジャーナリストのエミリー・ヨッフェ（Emily Yoffe）さんです。
相談者が夫を「彼女」と呼んでいるのに対し、回答者は「彼」と呼んでいますが、本人が望まない代名詞で呼ぶのは、現在では（当時から？）相手への敬意に欠ける行為とみなされています。
He Becomes Her | Slate (2012年)
相談
私は、トランスジェンダーの人々はシスジェンダー［トランスジェンダーではないこと］の人々と同じ敬意を持って扱われ、同じ権利が行きわたるべきだと信じています。ずっとそう感じてきましたし、トランスジェンダーの友人も何人かいます。* 性転換（sex change）…トランスジェンダーの人に対して使う用語としては的確でないため現在ではほとんど使われない。
そうしたら、私の愛する夫が女性になりたいと――あるいは、自分はずっと男性の体に閉じ込められた女性のように感じていたと言ってきました。そして、性別移行を始めなければ精神的におかしくなってしまうと。
当初は、性別移行中とその後しばらくは結婚生活を続けると約束しました。私たちの結婚が彼女の性別移行や性転換［sex change*］に順応できるか、試してみることにしたのです。
3カ月が経った今、夫を愛しているのと同じくらい惨めな気持ちです。
夫に対する私の愛情は、ある程度は彼の［his］男らしさに根ざしています。夫の女性化が進むほど彼女へのロマンティックな愛情は薄れていきます。
私が彼女の妻のままでいられるとはとても思えません。私は悲しみに打ちひしがれ、大袈裟ですが、まるで未亡人になった気分です。
夫は今、精神的に不安定です。性別移行が理由で、彼女にとって重要な人を何人か失ったからです。
周りのみんなは私を称賛してくれます。私が彼女を応援し、結婚を続けているからです。今では詐欺師にもなった気分です。
彼女は私をすごく愛してくれています。彼女がトランスジェンダーだから離婚したいだなんて、どうやって伝えたらいいか想像もつきません。それとも、悪者になって去る方がいいのでしょうか？
カウンセラーには通っています。
回答
もちろん、人は結婚生活のなかで変化し、成長します。そうでなければ結婚は息苦しいほど退屈でしょう。しかし、夫が女性として生きていきたいというのは、結婚の契約そのものを変えたも同然だとエミリーさんは言います。
ある意味、彼は新しい人物として生まれ変わりつつあり、あなたにはそのような状況下で結婚生活を続ける義務はありません。「ずっと男性の体に閉じ込められた女性のように感じていた」のであれば、きわめて重要な情報を相手に伏せたまま結婚したことにもなる、とエミリーさんは指摘しています。
あなたがまだ彼を愛していて、心の支えになりたいと思っているのは素晴らしいことです。しかし、あなたも精神的に不安定のはずです。それに、夫の人生が変われば、あなたの人生も変化を余儀なくされます。そこに思い至ることに何の問題もありません。
《余談》
メディアなどでは、配偶者からカミングアウトされた人が「今も夫婦として仲良く暮らしてます」「元夫の新しい人生を応援してます」と語るケースが美談として語られがちです。そのため「相手を応援できない私はダメな妻／夫だ」と自己嫌悪する人もいるようですが、決してそんなことはありません。
《関連》
・夫にゲイだと伝えられた妻。苦しんだ彼女は、なぜ同性婚を願うのか｜ハフポスト
《ブログ内関連ページ》
・［体験談］ゲイだった夫との離婚を乗り越えた女性からのアドバイス
・夫は妻は同性愛者 － 孤立する異性愛配偶者たち