2019年9月27日金曜日

[体験談]作家のエド・ギャフニーが語る、ゲイの息子の父親としての資質

文字画像「体験談」
アメリカにエド・ギャフニー(Ed Gaffney)という作家がいます。妻は人気ロマンス作家のスーザン・ブロックマン(Suzanne Brockmann)。2人の息子のジェイソン・T・ギャフニー(Jason T. Gaffney)はゲイで、俳優や脚本家として活動しています。

ジェイソンは幼い頃からステレオタイプなゲイの特徴を見せていました。そこで両親は息子がゲイである可能性を受け入れ、家庭環境に気を配りながら育ててきました。しかし、父親のエドには不安なことがあったようです。
今回取り上げるのは、エドがアメリカ版ハフポストに書いたエッセイです。

Straight Dad, Gay Son | HuffPost (2016年)
「ねえ、パパ!」
90年代半ば、8歳の息子ジェイソンが一枚の紙を手に私の方に歩いてきた。
「先生が世界で一番素晴らしいと思う人に手紙を書きなさいって。これでいいか読んでみてくれる?」

中略

「もちろん」と言って手を差し出した。
「誰に書いたんだ?」
「ベット・ミドラー[*]」
息子はそう言ってワイヤーフレームの眼鏡越しに私をじっと見上げた。
「あの人、最高でしょ?」
* 歌手、女優のベッド・ミドラーはゲイ・アイコンとされ、ゲイ男性はベッド・ミドラーが好き、または、ベッド・ミドラーが好きな男性はゲイの確率が高い、というようなステレオタイプがある。

息子が父親である自分とは全く似ていないと感じたのは、それが初めてではありませんでした。
ジェイソンが仮装用に自らワンピースを選んだのは3歳の時。その頃の「勝負服」はゴールドのラメのマントや、羽のボア(襟巻)でした。
5歳の頃には家中のあらゆる場所で踊るようになりました。誰に習ったわけでもなく、体の内側を解き放つような踊りだったそうです。
10歳になる頃にはタップダンス教室に通い、11歳頃には、お気に入りのミュージカルの歌やセリフを一言一句覚え、おもちゃで作ったセットと人形を使って両親を相手に上演していました。

最初の頃は、誰に似たのか分からない息子の独特さに驚くばかりでしたが、成長とともにゲイだという可能性が現実味を帯びて感じられるようになり、エドさんの脳裏にある不安がよぎります。
突如としてはっきりしたのは、重要な問題は「彼の性質はどこから来たのか?」ではなく、「ジェイス[ジェイソンの愛称]がゲイだと分かった時に、私は良い父親の資質を備えているだろうか?」ということだった。

というのも、ジェイソンは多くの点で、ゲイのステレオタイプな好みや態度の、歩く(時には踊る)見本だった――ミュージカル、これ見よがしのドレス、ベット・ミドラー。あろうことか、ベット、ミドラー。8歳の息子が世界で最も憧れる人物がだ。

しかし、どうすればゲイの息子にとって良い父親になれるのか、エドさんには見当もつきませんでした。
言っておかなければならないのは、どうやってゲイの子供を愛すればいいかという問題ではなかった。ジェイソンのことは生まれる前から無条件に愛してきた。あのゴールドのラメのマントも、ミュージカル・ナンバーも、ジェイスを思う気持ちを変えたものは何ひとつなかった。私が心配していたのは、ジェイソンがゲイだったとして、私は知っているべきことを知っているのだろうか、ということだ。ゲイであるというのは何か特別なことがあって、ストレート[異性愛者]の父親はそれを理解し、ゲイの子供に教えてやれなければならないのではないか? 私の無知のせいで息子を失望させてしまうのではないか?

こうした疑問を抱えながらもエドはスーザンとともに行動を起こします。ジェイソンがゲイだったとしても親の愛情を失う心配などしなくて済むよう、こうしたことを実行しました。
  • 自分たちの友人を家に集め、同性愛を見下すような“ジョーク”や発言はこの家では禁止だとルールを決めた。
  • 機会があれば成功した同性愛者の例を話題にし、功績を称えた。(『リトル・マーメイド』の歌を作った人の1人がゲイだって知ってた?[*] きっとご両親も鼻が高いだろうね)
  • ジェイソンが参加していた地元の劇団にはゲイの団員が多く、彼らと仲良くなったことで、結果的に、同性愛者でも異性愛者でも親の態度は変わらないと示せた。
* 作詞家のハワード・アシュマン。ディズニー版『美女と野獣』の作詞も担当した。

そして、とうとうその日がやってきました。ジェイソンが15歳の時、両親にカミングアウトしたのです。
準備ができていようといまいと、私は自分の恐れと向き合わざるを得なかった。私には十分な資質が備わっているだろうか? ゲイであるというのがどういうことかも知らないのに、ゲイの息子の良い父親になれるだろうか?

私は覚悟を決めた。もう後戻りはできない。ストレートの男とゲイの息子。何をしなければならないのだろう? 何を言わなければならないのだろう? ジェイスがカミングアウトした今、今日は昨日と何が変わるのだろう? 私は責任を果たせるのだろうか?

ところが、驚くべきことが起こった。

何も起こらなかったのだ。

何も起こらなかった。なぜなら、実のところ、何も変わらなかったからだ。

確かに、ジェイスがゲイだということははっきりしたが、その情報で彼という人物が変わったわけではなかった。私が彼をどれほど愛しているか、どれほど誇りに思っているかも間違いなく変わらなかった。彼が幸せで健康な男性に育ってくれることを私がどれほど望んでいるかも変わらなかった。その翌年に彼が運転免許の試験を受けるという事実も変わらなかった。さらに翌年に大学を目指すようになることも。

ゲイの息子の父親であるというのがストレートの息子の父親であるのと同じ仕事だと気づくのに時間はかからなかった。息子を愛し、寄り添い、助けが必要な時には手を差し伸べること。特別な訓練も、特殊な知識も、秘密の暗号も必要ない。確かにこの世界の恥ずべき現実として、ジェイソンにはストレートの子供より困難が多い。しかし、困難に直面する子供の力になることは親の役目の一部にほかならない。

こうしたことに気づいたエドさんは、ジェイソンに車の運転を教え、大学の見学に連れていき、世の中の差別について話し、婚姻の平等のための署名を家々を回って集めました。エドさんにとっては、どれもが父親としてなすべきことでした。
なぜならジェイソンは私の息子だからだ。そして私は彼の父親だ。息子を愛し、寄り添い、助けが必要な時には手を差し伸べるのだ。

それから念のため言っておくが、私もベッド・ミドラーは最高だと思う。
Straight Dad, Gay Son | HuffPost (2016年)

*****

《補足》
同性(男性)が好きだということと、好みが女性的だということは本来は別の話ですが、「子供の頃から好みが女の子っぽかった/ゲイっぽかった」というゲイ男性は珍しくないようです。

《関連》
2012年に作られたロマンティック・コメディ映画『The Perfect Wedding』の予告動画。
制作と脚本はエド・ギャフニー、スーザン・ブロックマン、ジェイソン・T・ギャフニー。
主演はジェイソン・T・ギャフニー(ヒゲがない方)です。
さらに、ジェイソンが演じるキャラクターの母親役としてスーザンが、祖父母役にもジェイソン自身の祖父母が出演しているそうです。
The Perfect Wedding | IMDb

スーザン・ブロックマンの小説『ホット・ターゲット』(2004)の冒頭には息子への献辞があり、エドさんのエッセイで語られていた話が母親視点でつづられています。
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