2017年11月11日土曜日

重力波を検出したLIGOの天体物理学者Nergis Mavalvala

Nergis Mavalvalaの画像
from Wikipedia
10月3日にノーベル物理学賞の受賞者が発表され、重力波を検出した研究チーム「LIGO」を率いた3人の教授が受賞しました。この「LIGO」の主要メンバー(?)の1人、ナージス・マヴァルヴァラ(Nergis Mavalvala*)のことを少し調べてみました。
* ナーギス、ナージスなど人によって発音が違う。ご本人が発音している動画が見つからなかった。日本語ではネルギス・マバルバラという表記もあった。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授である彼女は、優れた天体物理学者であるだけでなく、アメリカ科学界において女性であり、アジア人であり、レズビアンだということで、さまざまなマイノリティのお手本となる人物としても注目されているようです。

1968年、パキスタンのラホール生まれ、カラチ育ち。
子供の頃はお転婆で、自転車屋さんで工具を借りて自分の自転車を修理するような子でした。親からは、服を油まみれにして叱られることはあっても、女の子だという理由で行動を制限されたことはなかったと言います。(*1)
*1. Just Herself | Science (2012)

“I grew up in a family where the stereotypical gender roles were not really observed,” Dr Mavalvala says. “So I grew up thinking women can, must and should do anything and everything. That is very important for me.”
[中略]
There was no pressure to do something that was their dream rather than mine.”
Nergis Mavalvala, Pakistan’s unexpected celebrity scientist | Dawn (2016)
(要約)「私はステレオタイプな性役割があまり見られない家庭で育ちました。ですから、女性はどんなことも全てできるし、そうすべきだと考えながら育ちました。それは私にとって非常に重要なことです。
(中略)
自分の夢ではなく親の夢を追うようなプレッシャーはありませんでした」

1986年、名門女子大学であるウェルズリー大学に進学するため渡米。その後、物理学の博士号を取得するためMITに進学。そこで今回ノーベル賞を受賞したレイナー・ワイス(Rainer Weiss)に師事したことで、重力波の観測に携わることになったようです。
2010年、天才賞とも呼ばれるマッカーサー・フェロー(マッカーサー賞)受賞。
私生活では女性と結婚しています。お子さんもいて、2012年の記事(*1)では4歳児の母親と書かれています。現時点でのウィキペディアには2人の子供がいると書かれていますが、これは出典がよく分かりませんでした。

2012年、「Out to Innovate」というイベントで講演を行いました。これはSTEM分野(科学・技術・工学・数学)に携わるLGBT向けのキャリア・サミットとのことです。


冒頭で彼女は「人との違いを祝福しよう」と語っています。
We're all different not just because we're queer and we're nerds, but we're different in many other ways, too. ... We all should surround ourselves by [sic] people who can embrace our differences.
VIEWS: Lesbian mom of color played key part in wave discovery | Windy City Times
(要約)「私たちはみな違っています。それはクィア(*)だからオタクだからということだけでなく、私たちはみな、さまざまな点で違っているんです。そして、私たちは違いを受け入れてくれる人のなかに身を置くべきです」
* クィア…性的に非主流であること。

レイナー・ワイス教授は「良い人間、良い科学者であれば、後はどんな人でも構わない」というスタンスの人で、当時としては珍しく、チームの中に「2人も」女性がいたそうです。性的指向に気づいたのもこの頃で、チーム内ではカミングアウトの必要もないくらい自然に受け止められたといいます。オープンにできた理由として、チーム内で女性というマイノリティ性が受け入れられていたことから、同性愛という別のマイノリティ性も受け入れられると判断したのだろう、と自己分析しています。

重力波の観測によって彼女の名前は母国でも知れ渡りました。パキスタンの新聞記事のなかで、パキスタンの人々へのメッセージとして、こんなことを語っています。
“Anybody should be able to succeed — whether you’re a woman, a religious minority or whether you’re gay. It just doesn’t matter,” she says.
[中略]
And I am proof of that because I am all of those things. With the right combination of opportunity, it was possible for me to do.”
Nergis Mavalvala, Pakistan’s unexpected celebrity scientist | Dawn (2016)
(要約)「誰もが成功できるべきです。女性であれ、宗教的マイノリティ(*)であれ、同性愛者であれ。そこは重要ではありません。
(中略)
私が証拠です。私はその全てなんですから。機会が正しく組み合わさったおかげで私にも可能だったんです」
* ゾロアスター教の家庭で育っている。

《参考》
Nergis Mavalvala | Wikipedia

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