2019年8月23日金曜日

[体験談]トランスジェンダーの子の母親「子供の性器のことは聞かないで」

文字画像「体験談」
トランスジェンダーの芸能人や活動家が、仕事や活動の一環として、自分の体や受けた手術の内容を詳しく話すことがあります。テレビなどで見る機会も多いため、トランスジェンダーの人とはそういう会話をするものだと思っている人もいるかもしれません。しかし一般的に、下着の中の話というのは大変プライベートです。

今回紹介するエッセイでは、トランスジェンダーの息子[*]がいる母親がこうした風潮に疑問を投げかけています。
* 社会的に男性として生活している。

Yes, my teenage son is transgender. No, you may not ask about his genitals | Washington Post (2015年)
(ええ、私の10代の息子はトランスジェンダーです。 いいえ、彼の性器のことは聞かないでください)

アメリカで小児科医をしているシャロンさんには、16歳(当時)のトランスジェンダーの息子がいます。そのことが周囲に知られるようになると、親しくもない人たちから立ち入った質問をされるようになったそうです。
ある日曜の早朝、シャロンさんのもとに電話がかかってきました。こんな時間に誰だろうと出てみると、5年前に一度話したくらいの面識しかない、義母(姑)の友人でした。しかも、義母の友人からの電話はその月で4人目でした。
「ハイ、シャロン」
受話器の向こうから猫なで声が聞こえてきた。相手は彼女たちが必ず聞く質問に素早くたどり着いた。
「でも、彼は“身体的”にはどんな風なの?」
私は声のトーンを彼女に合わせて言った。
「それはプライベートなことですから。私たちはその話はしないんです」
「私はあなたがお医者さんだから聞いているだけよ」
私は毅然と答えた。
「ええ。でも彼は私の息子ですし、これはプライベートなことです」

シャロンさんの子供はトランスジェンダーだとカミングアウトする前、何年にもわたり、うつ、不安、摂食障害、自傷行為、自殺念慮に苦しんでいました。学校ではいじめを受け、3年間で5回も転校しました。
セラピストの支援を受け、15歳でカミングアウトすると、シャロンさんたち家族はすぐさま息子として受け入れました。自分を偽らずに生きられるようになったことで精神面も驚くほど快方に向かい、家族全体がよくなっていったそうです。

しかし、世間の人々が知りたがるのが性器や手術の話ばかりだということにシャロンさんは驚き、うんざりしています。
私の息子に膣があるかどうか人から聞かれる時――実際に聞いてくる人がいるのだが――私は侵害され見下されたような気持ちになる。トランスジェンダーの人々は人間だ。動物園の動物ではない。じろじろ眺めて感想を言い合うためにいるのではないのだ。母親に向かって知的障害のある息子のIQを聞いたり、麻痺のある娘がどうやってトイレを使うか聞いたりするのが失礼だというのは、皆、理解しているようだ。それではなぜ、私の子供の脚の間に何があるのか​​尋ねるのはいいのだろうか? 結論:よくない。

シャロンさんは、トランスジェンダーについて学ぼうとする人からの質問は歓迎していますが、それでも性器の話はあまりに個人的すぎると考えています。性器について聞く人たちが興味本位なのも見て取れます。
もし本人が体や性別移行について知ってほしいと考えるなら自分から話題にするだろうし、性器のことを聞いていいのは医者か恋人くらいのものだ、とシャロンさんは書いています。

それから、トランスジェンダーの子の親を、子供を支える勇敢な親だと褒め称える必要もない。
何年も前、下の子が肺炎にかかり、私が夜通し呼吸の手当てをしていた時、誰も私を勇敢だとは言わなかった。息子が4月に盲腸の手術をした時、病院に連れて行ってお腹の痛みに寄り添ったことを誰も褒めはしなかった。
私が子供の世話をするのは彼らが私の子だからだし、彼らを愛しているからだ。私は勇敢ではない。私はヒーローではない。私はただのママだ。そして、良い親ならそうするように、わが子の幸せや安全を維持するために必要なことなら何だってする。
私が他の人に望むのは、息子と私の家族を、普通に浮き沈みのある普通の家族として受け入れてくれることだ。トランスジェンダーの人や彼らが愛する人を他の人と同じように扱おう。トランスジェンダーの人々は、残念ながら、目立ってしまうことが多い。彼らがただ溶け込むのを手伝ってほしい。

中略

私たち家族が誰かと初めて会う時、普段はこう言う。
「こんにちは。私はシャロンです。この人は夫で、それから娘と、息子です」
他人が本当に知るべきことはそれだけだ。

*****

もうひとつ、別の記事から似たような内容の個所を引用します。
育児サイトの相談コーナーで、ある母親が「娘の友達にトランスジェンダーの子がいるけど、どう接したらいい?」と質問しています。
それに対し、臨床心理士のマシュー・ラウス (PhD, MSW) さんが、相手を尊重する上で確認すべきことは2つだけだと回答しています。
Ask The Expert: Talking with Your Teen’s Transgender Friends | Your Teen Magazine(2016年)
「どんな名前で呼んだらいい?」
「人称代名詞[彼/彼女など]はどれがいい?」
こうした質問であれば、10代のトランスジェンダーの子は自己同一性に対して主体性が持てますし、詳細すぎることもありません。 性同一性や性的魅力に関する質問はあまりにも土足で踏み込むようなものですし、10代の子たちはまだ全てを理解していないかもしれません。

さらに、性器や性別移行の計画、手術に関する質問は全くもって不適切です。同じ質問をシスジェンダーの人[トランスジェンダーではない人]に尋ねるのが不適切なのと同じです。
相手が好む名前と人称代名詞が分かったなら、お嬢さんのトランスジェンダーの友人が望む呼び方をがんばって尊重しましょう。うっかり間違えることもあるかもしれませんが、大丈夫です。間違ったことを深刻にとらえる必要はありません。簡単に謝って話を続ければいいのです。その努力は好意的に伝わるでしょう。