2018年6月17日日曜日

[体験談]トランスジェンダーの息子のホルモン治療のことを考えると不安です

文字画像「体験談」
トランスジェンダーの人がホルモン治療や外科治療の体験を語る文章はありますが、親の視点で語られたものは意外と珍しいかもしれません。

アメリカ、テキサス州に住むメリッサ・バラード(Melissa Ballard)さんは2人の子供の母親です。子供の1人アッシャーは、ある時期から(10歳ごろ?)女の子であることへの違和感を訴え出しました。メリッサさんは一時的なものだと思い聞く耳を持たずにいましたが、アッシャーの精神状態はどんどん悪化し、12歳の頃に自殺未遂にまで至りました。ようやくことの重大さに気付いたメリッサさん夫妻は子供を支えようと決心し、今では地元で家族会を立ち上げるなど社会的な活動もしています。
また、トランスジェンダー情報サイト「Transgender Universe」で執筆活動もしていて、そのなかで性ホルモン剤での性別移行に対する不安をつづっています。

Fears of A “Trans-Parent” | Transgender Universe (2016)

記事掲載時、アッシャーは14歳くらいで、二次性徴抑制治療を受けていたようです。これは薬で性ホルモンの分泌を抑え、二次性徴の進行を一時的に止める治療法です(薬の投与をやめれば再開する)。これによって第二次性徴期の体の変化による精神的苦痛を和らげ、落ち着いた状態で自分自身と向き合う精神的・時間的余裕が持てるのだそうです。(下記リンク参照)

(記事掲載時から)1年半前にこの治療法を開始した時は、メリッサさんは二の足を踏むことはありませんでした。子供だけでなく自分たちにも考える時間が必要だったからです。
アッシャーはいずれテストステロン(男性ホルモンの一種)によるホルモン治療を強く望んでいます。しかし二次性徴抑制療法とは違い、ホルモン剤がもたらす身体的変化のなかには元に戻らないものもあります。それを考えるとメリッサさんは躊躇してしまいます。
性別移行のこの段階に進みたいという彼の要求や切望は理解している。ほかの14歳の少年たちは声変わりや体毛などの正常な肉体的変化を経験しているのに、 私たちの息子は13歳のまま、それも13歳の少女のままで足止めされているのだ! しかし、トランスの子の親としてクロス・セックス・ホルモン[身体の性とは別のホルモン]には複雑な気持ちと恐れがある。私が抱く恐れはあらゆる「もしも」であり、今、私たちが下す/許可する決断のせいで、彼が将来経験するかもしれない後悔の可能性だ。

16カ月間の二次性徴抑制治療はアッシャーには非常に効果的だったようで、メリッサさんも満足しています。だからこそ今のままでいたいという思いが強くあります。
※二次性徴抑制療法は2~3年で終える(次の段階に進むか決める)そうです。
私は彼が変化に圧倒されてしまうことを恐れている。彼はヒゲや体毛を欲しがっているが、本当にそうなのだろうか? 大量のニキビのような、ティーンエイジャーには耐え難いこともある副作用に対処できるだろうか? 怒りや激情、情緒不安定もまた“潜在的”な作用だ。私は息子が感じてきた絶望の深さを目の当たりにしてきたし、もう二度と彼にそんな思いはさせたくない。

10代の子供が医者の支援のもとでホルモン治療を受けられるなど一昔前は考えられないことでした。メリッサさんは、その恩恵に比べれば親の不安など大したことではないと自分に言い聞かせ、不安そのものを受け入れています。子供にまつわる不安は親である以上は避けられないものでもあるからです。
子供がトランスジェンダーであろうとシスジェンダー[*]であろうと、私は子供たちのことで恐れを抱き続ける。それが親というものだ。そして彼らが何歳であろうと、どんな人生を送っていようと、私は心配し恐れを抱く。それは彼らが私の子であり、私の人生であり、私の愛する者たちだからだ。
* シスジェンダー:トランスジェンダーの対義語。出生時に診断された性別と性自認が一致している人。

《参考》
トランスジェンダーの子、将来どうなる?|ママテナ
二次性徴抑制ホルモン;ゴナドトロピン抑制剤(18歳未満)|自由が丘MCクリニック
GIDの子に2次性徴抑制療法 当事者切迫、医学の助けを|毎日新聞
Journey of a Trans Family | Transgender Universe

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