2016年8月7日日曜日

[体験談]シンガポールの母親「息子2人はゲイです。夫からはひどいことも言われました」

シンガポール国旗の画像
シンガポールに「SAFE」というLGBTの家族会があります。2006年にゲイの息子が2人いる母親と、ゲイの兄弟がいる2人の姉妹、カミングアウトしたばかりのゲイ、クリスチャンの女性、といったメンバーで立ち上げました。
中心的な役割を担っているKhoo Hoon Engさんは、Yale-NUSカレッジの生化学の准教授、そして2人のゲイの息子の母親です。

Khooさん一家のエピソードを簡単に紹介します。
これはもともとシンガポールのLGBTコミュニティを取材した本、『SQ21: Singapore Queers in the 21st Century』(Ng Yi-Sheng著。2006年)に収録されていた文章だそうです。
取材当時、息子さんは24歳と21歳でした。
SQ21 Khoo Hoon Eng |SAFE (2007)

長男のカミングアウトは15歳のとき。
Khooさんが一人でいるときに長男が現れ、「ママ、僕ゲイなんだ。」と言ってきました。Khooさんは、なんとなく気づいていたような気もするけれど、やはりショックだったといいます。しばらく思案したあと、息子の部屋へ向かいました。
あとから彼の部屋に行って話をしました。基本的にはよくある母親の反応です。
「本当なの? 別に今すぐに決めなくてもいいんじゃない? まだ若いんだし。今まで通りみんなと仲良くなさい。それからお父さんにはまだ言わない方がいいと思う。」
最後の部分は言わない方がよかったと考えていますが、当時は父親の反応はとても大きな不安要素でした。

子供がゲイだということを自分の中でどう処理していいかわからず、受け入れるのはやはり大変でした。一番心配だったのは息子の安全や将来のことでしたが、周りの人に相談もできず、インターネットも今ほど便利ではない時代だったため、同性愛に関する本を大学の図書館で探したり、アメリカから取り寄せたりしました。

次男も15歳の頃でした。
兄が買った同性愛に関する本を読んでいた次男を、父親が「兄貴はおまえをゲイに変えようとしているのか?」と、とがめたことがありました。
それでその夜、次男とも話をしたところ、彼からもゲイだと告げられました。
自分もゲイで、つらい思いをしてると言いました。というのも、彼が言うには、「お兄ちゃんもゲイで、息子が2人ともゲイだなんて親は苦しむに違いない」って。次男にとってもどれだけ困難なことだったか、今は理解できます。

父親もやはりショックを受けていました。子供の前では変わらずいい父親でしたが、Khooさんは妻として夫のグチのような発言をたくさん聞いてきました。
Khooさん夫妻はのちに(息子たちの性的指向とは関係なく)離婚することになるのですが、そのときに言われた言葉は今思い出しても腹が立つと言います。
離婚の過程で彼が最初に言ったのは、「よかった。これで他の女性と結婚するチャンスができたし、俺の未来の子供はゲイじゃないだろう。」でした。
[中略]
私の反応は、これはもっと理性的に考えられるようになってからのことですが、
「私たちの息子のことをなぜそんな風に言えるの? うちの子たちの何がいけないっていうの? よくそんなことが思い浮かぶわね?」
というものでした。その後は[変化していき]、
「そもそもゲイで何がいけないの? それから、あの人は息子2人がゲイなのは私のせいだとでも言いたいの? ガールフレンドと結婚して新しく子供ができたらゲイにはならないはずだと?」
こうしたことは男性にはひどく困難なのだと理解せねばなりません。特に、“伝統的な中国”文化における家系の重要性を信じる、女性嫌悪的な男性にとっては。
ああいう発言に対して今の私ならこう答えるでしょう。
「あなたの将来の子供がゲイであろうとなかろうと、私たちの2人の息子の半分でも、素晴らしくて愛情深い人間だったらラッキーね。」

とはいえ、旦那さんは子供の前ではいい父親だったとKhooさんは強調しています。子供への接し方や愛情が変わることはなく、親戚に息子たちのことを説明したり、ゲイの子の親として息子の活動に参加したりと非常に協力的だったそうです。

Khooさんの親としての願いは、子供が自分たちの能力を生かして社会に貢献する人になることです。ですから、息子たちが留学先や地元でLGBTやHIV/AIDS関連の活動にたずさわり、リーダーシップを発揮している姿を誇らしく思っています。
そしてKhooさん自身もHIV/AIDSなどの活動に関わるようになって人脈が広がり、家族会の設立へとつながっていきます。

すべての親御さんに知ってほしいのは、本当に楽になっていくということです。本を読めば読むほど、考えれば考えるほど、話せば話すほど、受け入れるのが簡単になっていきます。包み隠さず正直に話すことはとても助けになります。ちょうど、最初にお子さんが自分自身のことを話せるくらいにあなたを信頼し、正直になったように。

どうして我が子を怖れる必要があるでしょう? お子さんは今も、カミングアウトした日の前にあなたが愛していた子とまったく同じ人物です。私たち親の子供への愛情は変わりません。あの日も、その後の日も、この先も毎日ずっと。

《関連資料》
Khoo Hoon Engさんを取材した記事。
Mother with gay sons speaks up |The Independent Singapore News (2014)
LGBT folks are ‘One of Us’: alternative SG50 community project |Yahoo News (2015)

シンガポールのLGBT情報サイトDear Straight Peopleのインタビュー動画 (2016. 英語)
Meet The Singaporean Mother Of Two Gay Sons |YouTube


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