体験談の定番としては、
- 親は周囲の目が気になったり何かと不安。
- 眉をひそめるご近所さんが出てくることもある。
- 当の子供たちは気にせずいつも通り遊んでる。
日本だとアメリカなどに比べてコスプレとしての女装のハードルは低そうな気がしますが、どうなんでしょう?
念のために書いておくと、子供が女性(男性)キャラの仮装をしたがるからといって、必ずしも自分のことを女の子(男の子)だと思っているわけではなく、単に好きなキャラだからとか、衣装がカッコいいからとか、さまざまな理由が考えられます。
今回ご紹介するのは、息子に好きな格好をさせてあげればよかったと後悔するお母さんの体験談です。
You Can Be Anyone You Want! (Well, Sort Of) |The Huffington Post (2013)
ジュリーさんのゲイの息子、ハリーがまだ2歳半だった1992年のことです。
ハロウィンを目前に控えたある日、ジュリーさんはハロウィンのお祭りがどんなに楽しいか説明していました。
「トリック・オア・トリートに、お化け屋敷に、怖いお話、ピニャータも花火もあるよ!それと仮装もするの。なりたいものになんだってなれるんだから!」
その時、ハリーはビデオでディズニーの『ピーターパン』を見ている最中でした。
「じゃあ、ウェンディになる。」
「ウェンディ?」
息子は一時停止中のテレビ画面に目をやった。
「ピーターパンに出てくるウェンディってこと?」
ハリーはうなずいた。
「なりたいものになんでもなれる」と言ってしまった手前、「いいよ」と答えてしまいましたが、ジュリーさんは困惑していました。
今のは一体なんだったんだろう? なぜピーターパンを見ている最中にハロウィンの仮装の話なんかしなきゃならなかったんだろう? これがドナルドダックを見ているときだったら? デイジーダックと答えた? そうかもしれない。つい2カ月前に、息子は頭の「内側」では女の子なんだと言ってきたばかりだ。でも、ハロウィンの仮装がブルーのナイトガウンに、同じ色のリボンと茶色のウィッグだなんて。
ジュリーさんも夫のケンさんも、ウェンディの格好はさせたくありませんでした。息子を誰かにからかわれるような目に遭わせたくはないし、トラブルの種になりそうなご近所の顔も2人ほど思い浮かびます。
私は自分のことも守りたかった。ここはアメリカ中西部。もし男の子がハロウィンに女の子の格好をすれば、その子はいずれゲイになると解釈される。そして一部の専門家によれば、男の子がゲイになるのは高圧的な母親のせいだという[*]。私がそう信じていたわけではない。それに近所の人たちがどう思うかなんて気にしたくはなかった。でも、気になった。高圧的な母親というのはつまり、ダメな母親ということだ。私は誰からも、ハリーや自分にレッテルを貼られたくなかった。*訳注:現在は否定されています。念のため。
お祭りの前夜、ジュリーさんはディズニーストアでピーターパンの衣装を買って帰ると、「ウェンディの衣裳はなかった」とウソをつき、オレンジ色の羽飾りやゴム製のナイフの魅力をアピールして息子を言いくるめました。
しかし翌日、ハリーがピーターパンの衣装を着てくれてホッとしたのもつかの間、罪悪感に襲われます。ハリーの親友の女の子、エリカがバットマンの仮装をしていたのです。
「娘がこれがいいって言うもんだから」と母親はささやいた。
大人たちはマントの戦士と化したエリカのあまりのかわいさに笑みをもらした。痛みが私の腕を駆け上った。自分自身のダブルスタンダードに閉じ込められて体が縮んだような気がした。小さな女の子が男性ヒーローになるのはOKなのだ。
確かに周囲から眉をひそめられたり、無言の嘲笑を受けたりするのは回避できたかもしれない。だが、自分がまるでディズニーの意地悪な女王になって、毒リンゴのかわりにオレンジ色の羽飾りとゴムのナイフで息子をそそのかしたように感じた。
それから5年後、その時の記憶が思いがけない反応とともによみがえってきます。
3歳の男の子がいるご近所さんにあのピーターパンの衣装をあげようとした時、「タイツとか、フェミニン過ぎる格好はさせたくない」と断わられてしまったのです。
ジュリーさんにはピーターパンの衣装が女性的だなんて思いもよらないことでした。
さらに後年、21歳になったハリーに真相を「告白」すると、全く覚えていないハリーに笑われてしまいます。
「それにママ、ピーターパンって、たぶん子供向けの衣装で1番ゲイっぽいよ。」今でこそ笑い話にできますが、それでもあの時の決断は間違いだったとジュリーさんは断言しています。
「そうなの?」
「考えてもみてよ。ブロードウェイじゃピーターパンはいつも女性が演じてる。」
「じゃあ、心の傷はないのね?」と冗談まじりに言った。
「もしあったとしても、ママなら埋め合わせてくれてたよ。」と息子はほほ笑んだ。
実は「ピーターパン」の2年後のハロウィンにも同じようなことがありました。その時は『パワーレンジャー』のピンクレンジャーになりたがったのをなんとか阻止したのですが、やはり最後に残ったのは後悔でした。
これに懲りたジュリーさんは、翌年からハロウィンの仮装に口を出すのをやめました。そのおかげで、4年生の時に考えた“バンパイア・ゲイシャ”や、5年生の時に自作した“給食のおばさん”といった、独創的な仮装が見られたことを誇りに思っているそうです。
The Second Halloween My Boy Wanted to Be a Girl |Huffington Post (2014)
↑リンク先の元記事で、安いホラー映画に出てきそうな給食のおばさんの仮装写真が見られます。
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