しかし子育てにまつわる自責の念は、親、とくに母親である以上避けられないとも聞きます(なにかというと母親に非難が集まりますし)。
アメリカで育児コーチをしているスーザン・バーランドさんはゲイの息子の母親でもあり、自身のサイト「Susan Hope Berland」などでLGBTの子を持つ親向けにさまざまなアドバイスを発信しています。
彼女は80年代の終わりに当時20歳の息子さんからゲイだと告げられました。
息子がカミングアウトした頃、私は自分を相当に進歩的な人間だと思っていた。ゲイやレズビアンの友人も多く、LGBTコミュニティと彼らの権利の揺るぎない支持者だった。[*1]
息子がゲイかもしれないと感じることは幼いときから何度もあり、カミングアウトする頃には家族の誰もがほぼ確信していたそうです。ですからゲイだという事実には驚きもありませんでした。それなのに、なぜかネガティブな感情や不安が湧きあがってきます。当時の戸惑いを複数のエッセイで振り返っています。
人がなんと言い、どう思うか恐れた。私のせいだと思うだろうか? それは私自身の恐怖の投影だった。私のせい? 頭では違うと知っていたが心では確信が持てなかった。母親の存在が強すぎると息子がゲイになるという説[*2]にも、あるいはいくらかの真実が含まれているのではないか? 私は過保護だった。母と息子にしてはひどく親密だった。もしかしたら、生後3カ月の息子がおむつ交換台から落ちた時に体に何か起きたのかもしれない。ああ、誰にも知られたくない。
From Scared to Out and Proud |The Parents Project (2014)
心の奥を探っていけば、「わが子にはゲイであってほしくない」という気持ちにたどり着くのですが、それはスーザンさんにとっては受け入れがたい感情でした。
なぜこんな気持ちになるのか分からなかった。[しかし内心では]息子にはゲイであってほしくないと思っていることを認めたくなかった。私のせいかもしれないと思っていることを認めたくなかった。そうした気持ちを長い間葬っていた。
Finding Support & Understanding - A Coming Out Story by Susan Berland |The Parents Project (2014)
ゲイの子を持つリベラルな親として自分の反応にショックを受け、恥ずかしく思った。
「こんなふうに思ってはダメ。一体、私どうしちゃったの?」
私にお手本となる人はいなかった。ゲイやレズビアンの知り合いはいたが、同性愛の子を持つ親の知り合いはいなかった。
自分の反応からはすぐに「回復」したが、そうした反応を持ったことを恥じる気持ちは長く残った。そんなふうに感じる自分を許せなかったし、そんなふうに感じてはいけないと強く思ったからだ。[*1]
その後、スーザンさんはLGBTの子を持つ親たちと出会い、活動をともにするようになります。その中で多くの親が自分と同じように感じていることを知り、「LGBTコミュニティを支持しているけれど、わが子のこととなると話は別」と言えるようになっていきます。
ゲイの子を持つリベラルな親は、子供のカミングアウトに対する自分の反応を批判し恥じ入ることがよくある。恥や批判は受容を学ぶプロセスを長引かせるだけだ。心が動くままに感じていい。そんなふうに感じるのはあなたが初めてではない。
大切なのは自分の中のお子さんへの愛情に意識を向け、それをお子さんと共有すること。そして本当のことを話すことだ。お子さんには、あなたが愛していること、そして、今は悪戦苦闘しているけれどきっと乗り越えるということをわかってもらえればいい。[*1]
*1 How a liberal parent of a gay child reacts when their child comes out |Susan Hope Berland (2014)
*2 母親の影響が強すぎると息子が同性愛者になるという発想は、1950年代の研究によってアメリカ国内に広まったものだそうです。とっくに否定されているのですが、今なお俗説として存在感を持ち続けているといいます。
《参照》 A Conversation With Dr. Michael LaSala, Ph. D. – Part 1 |The Parents Project
余談ですが、これで思い浮かんだのがアルフレッド・ヒッチコックの『見知らぬ乗客』(1951)です(原作はパトリシア・ハイスミス。1950年発表)。こうした同性愛観が反映されています。
《ブログ内関連ページ》
[体験談]息子が女の子みたいなのは父親がいないせい?
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