2014年4月12日土曜日

大きな目標でいじめを乗り越える12歳の少年

メッセージ画像 「今日、誰かのヒーローになろう。優しい言葉を送り、いじめは良くないと知らせよう」
StopBullying.gov
アメリカでは、性的少数者とされる子供はいじめに遭いやすいグループとして報告されています。男っぽい、女っぽい、ゲイっぽいなどと周囲から決めつけられてしまった子も同様です。
同性愛嫌悪やジェンダーのステレオタイプに基づくいじめの場合、学校や教師、時には保護者までもが味方になってくれないばかりか、結果的に、あるいは積極的に、いじめに加担してしまうこともあるようです。

先月、ノースカロライナ州の9歳の少年が話題になりました。彼は女児向けとされるアニメ『マイリトルポニー』のキャラクターバッグを持っていたことでひどくいじめられるのですが、学校側は加害者を罰することなく、少年にバッグの持ち込みを禁止して事態の収拾を図ろうとしました(その後、学校側は謝罪)。
1月には、同じくノースカロライナ州の11歳の少年が、やはり『マイリトルポニー』が好きだという理由でいじめの標的にされ、自殺を図るという事件もあったばかりです(一命は取り留めたが、脳に重大な損傷を負った)。
さらには、ヴァージニア州の8歳の少女が、服装や髪形が女の子らしくないと判断され、学校の方針にそぐわないとして転校を促されるという出来事もありました(その後、転校した)。
Boy, 9, is allowed to bring his My Little Pony lunch bag to school after they originally banned it because it 'triggered bullying' |MailOnline
Little Girl Taken Out Of Christian School After Told She's Too Much Like A Boy |WSET.com

そしてここにも、いじめに直面し、家族とインターネットの支えで乗り越えようとする子がいます。

学校でのいじめ

テネシー州で暮らすマーセル・ニアガード君(Marcel Neergaard)は、5年生の頃にはゲイだと自覚していたそうです。(本人いわく「ストレートではないけれど、ゲイかバイセクシュアルかは分からない。どちらかといえばクエスチョニング枠に入る。」)
学校でいじめられるようになったのもその頃でした。女の子向けとわかる黒いブーツを履いていたことがきっかけで、同性愛者に対する蔑称が投げつけられるようになります。自殺も考えたというほどいじめはエスカレート。身体的暴力に発展してようやく発覚し、両親は6年生の間ホームスクーリングに切り替えます。

父親のマイクさんは当時の様子を振り返ります。
「何も話してくれないことがよくあり、それが一番恐ろしかった。毎日、『うまくいってるよ、全て順調。』と言うばかり。状況は悪化しているのにその理由が分からない。しばらくたってから、ようやく何が起きているか聞かされたんです。」
Marcel Neergaard, Gay 11-Year-Old, Speaks Out On MoveOn.org Petition Victory |The Huffington Post

署名運動

ホームスクーリングをしていた11歳の時(2013年)、ひとつの転機となる出来事が起こります。地元、テネシー州の下院議員ジョン・レーガンが、教育改革を掲げる全米規模の教育団体StudentsFirstから、子供たちの為に立ち上がった「改革者・オブ・ザ・イヤー」として賞を受けたのです。しかし、このレーガン議員は、性的少数者の子供に対して抑圧的に働きかねない法案を支持してきた政治家でした。

テネシー州では、"Classroom Protection Act"(教室保護法)と呼ばれる法案が何度か提出されてきました。教師に対し、8年生以下の生徒に「人間の自然な生殖」以外について教えたり話し合ったりすることを禁止するというものです。
この法案は、同性愛嫌悪に基づくいじめが野放しになる、性的少数者の子の安全な場が築けなくなる、などの批判を浴び、"Don't say gay bill"(ゲイと言うべからず法案)とも呼ばれています。そして、レーガン議員はこの法案を推進し、法案作成にも関わっていました。
また彼は、信仰・哲学・政治的見解に基づく発言はいじめと見なさないという法案も支持していました。これは"license to bully"(いじめのライセンス)と呼ばれ批判されました。
StudentsFirst Selects Author of Tennessee's 'Don't Say Gay' Bill as 'Reformer of the Year' |Daily Kos

彼の受賞には批判が起こり、マーセルも他人事ではないと、StudentsFirstに対し授賞撤回を求める署名運動を始めます。
・署名を呼び掛けるマーセル(動画)
Taking a Stand Against Anti-Gay Bullying (VIDEO) |The Huffington Post (2013)
・署名サイトのページ
Tell StudentsFirst bullying lawmakers are not educational "Reformers of the Year"|MoveOn.org

署名運動はマーセルの強い要望で始まりました。ご両親は彼がこの運動で少しでも元気を取り戻してくれればいいと思っていたそうです。しかし、その反響は家族の想像を超えるものでした。署名は中国やオーストラリア、イスラエルなど世界中から集まり、一週間もたたずに目標数に達します。StudentsFirstはそれを受け、「私たちはマーセルを支持します」と宣言、レーガン議員への授賞を撤回しました。
UPDATED: Thanks From the Neergaard Family |The Bilerico Project (2013)
StudentsFirst Stands With Marcel |StudentsFirst (2013)

11歳のセクシュアリティ

ところで、このくらいの年齢の子がゲイだと認識しているという話になると、「その歳でゲイかどうかなんて分かるわけない。」「決めるにはまだ早すぎる。」という声が聞こえてきます。将来のことは分からないという意味では確かにそうでしょう。性のあり方に揺らぎのある人もいますし、変化したと感じる人もいます。周囲の大人が見守ることは必要でしょう。ただ、そこには性的少数者に対する忌避感もあるように思います。
"Don't say gay bill"(ゲイと言うべからず法案)を主導してきたステイシー・キャンプフィールド議員は、同性愛というのは性的に混乱した、あるいは方向の定まっていない子供が、影響力のある誰かにそそのかされ、戻れなくなり、思い詰め、不幸にも自殺するもの、と認識しているようです。
同性愛に対する必要以上に性的なイメージや、大人になる前ならば「阻止」したり「修正」したりできるという考えが、子供から性的少数者の情報を遠ざけようとするのかもしれません。
Stacey Campfield, Tennessee Senator Behind 'Don't Say Gay' Bill, On Bullying, AIDS And Homosexual 'Glorification' |The Huffington Post

一方、マーセルの父親のマイクさんは言います。
「同性愛とは大人の性的な事柄ではなく、ただ、誰を好きになるか、誰にときめくかということなんです。」
Oak Ridge boy, 11, talks about taking on state lawmaker, being bullied, realizing he's gay |Knoxnews
「もし明日、あるいは4年後になって、『パパ、僕はストレートなんだ。』と言ってこようと、『私は女の子なの。』と言おうと全く構いません。マーセルを抱きしめて、『ありのままのお前を愛しているよ』と言ってやります。」
Mike Neergaard at the Lavender Table with Gary Elgin |YouTube (動画)

マーセルの夢

その後マーセルは7年生になり、「署名してくれた5万4千人の力を感じながら」(別の)学校に戻ります。新しい学校でも同性愛蔑視の言葉を投げられ、学校側の対応に傷つくこともあるようです。睡眠障害を思わせる、ちょっと心配な記述もあります。それでも彼は、いじめのない、人々が平等に扱われる世の中のために声を上げています。
「テネシーにいるゲイの若者は僕だけではありません。オークリッジのゲイの子供も僕だけではありません。僕の学校にだって、ゲイは僕一人ではありません。僕はただ、立ち上がった一人というだけなんです。いじめのことばかり書いていますが、いじめは今もいたるところで、僕と同じような子の身に起きています。このままにしてはおけません。」
Different |The Huffington Post (2014)
「たった一人では世界の流れを変えることはできません。ひとつのコミュニティの心を変えることだってできません。それでも、あきらめません。言葉は静かに人を傷つけることもあるのですから、"That’s so gay!"や"faggot"のような不愉快な言葉に、これからもみんなで立ち向かっていかなくてはいけません。」
(中略)
「誰かが悪口を言っていたら間に入って、『言葉は人を傷つけることもあるんだ』と言おうと思います。そのわずかなサポートで、いじめられている子が次の朝を迎えられるかもしれないんです。」
Notes from the Lavender Table: Why the Dignity for All Students Act is important |Out & About Nashville (2014)

《ブログ内関連ページ》
12歳のゲイの息子を持つ父親へのインタビュー(マーセル君の父親)

《参考リンク》
ハフィントンポストでの執筆記事一覧
マーセル一家のFacebookページ
マーセルのYouTubeチャンネル

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