2015年12月7日月曜日

アジア系アメリカ人LGBTQを家族単位で支援するプロジェクト

アメリカ国旗の画像
アジア系アメリカ人の家族がLGBTの子供を受け入れようとするとき、アジア系特有の文化や家族観が影響し、孤立したまま適切なサポートが得られないということがあるそうです。

アメリカの非営利団体「Asian Pride Project」では、「家族もまたカミングアウトの過程をたどる」というフレーズを掲げ、アジア太平洋系LGBTQの物語を、個人ではなく家族の物語として集め紹介しています。

孤立しがちなアジア系家庭

このプロジェクトを立ち上げたのは台湾出身のソーシャルワーカーでレズビアンのAries Liaoです。

「アジア系コミュニティにある同性愛嫌悪の文化を変えたいならば、カミングアウトの過程をたどる家族の力にならないといけません。情報はあまりありませんし、アジア太平洋系アメリカ人の多くは移民で言葉の壁もあります。自分たちの悩みを他人に話すことにも慣れていません。」(*1)
*1 How Asian Families Learn to Welcome a LGBTQ Child’s Partner |Slate (2014)

彼女の母親も娘の性的指向を受け入れるのに10年かかったといいます。

「白人家庭では、親がゲイやレズビアンの子供を受け入れる際、たいていは彼らを完全に受け入れます。アジア人家庭の場合、親は個人的には子供を受け入れるかもしれませんが、より大きなコミュニティの一員としては受け入れません。『どんなことがあろうとあなたのことは大切に思ってる。でも、おばさんやおじさんには言わないで!』と言うんです。」(*2)
*2 Project Helps Asian Americans Come Out as Parents of Gay, Lesbian Kids |The Wall Street Journal (2014)

LGBT関連の情報が白人文化中心になりがちなアメリカ社会で、アジア系家族がお互いの体験を共有して孤独ではないと知ってもらうこと、また、直面している個人的・文化的な問題も特殊ではないと知ってもらうこと。それがこのプロジェクトの目的です。
そして、家族の一員にLGBTQのメンバーがいることが家族の秘密になることなく、公にしても気まずい思いをせずに済むようになることが究極のゴールだと言います。(*2)

2014年、彼らはこうした家族の物語を写真に収め、「Our Portraits, Our Families」と題した写真展を開きました。その中の一組を簡単に紹介します。

性的指向より親孝行

カンボジア出身のAkara Seungはクメール・ルージュ支配下の労働キャンプで育ちました。彼には今も涙に震えるほど辛い記憶があります。
子供の頃、苦しい生活を強いられていた彼は、自分の飢えを満たすためヤムイモを盗み隠し持っていました。一方で、母親は家族の食料となる一羽のチキンを得るために高価な宝石を手放しました。

親不孝な自分に対する恥と後悔はアメリカに渡った後も大きな影響を持ち続けます。親の恩に報いようという気持ちから、ゲイとして生きることよりも親が勧めた縁談の方を選んだのです。しかし結婚生活は3年で終わりました。
これ以上隠し通すことはできないと親にカミングアウトすると、母親は非難することなく受け入れてくれましたが、それによって親のために生きようという思いはさらに強くなりました。
他の兄弟姉妹は親もとを離れ独立していきましたが、彼は年老いた母親の面倒を見るため同居を続けています。

彼の撮影を担当した、写真家で甥のピート・ピンは言います。
「彼にとって親孝行はセクシュアリティと同じくらい選択の余地のないものなんです。」
Project Helps Asian Americans Come Out as Parents of Gay, Lesbian Kids |The Wall Street Journal (2014)
Akara Seungを紹介するピート・ピンのブログ (2014)


《参考リンク》
・Asian Pride Projectから、日系アメリカ人の体験談動画。日本語訳あり。
 Kris |Asian Pride Project
・アジア・太平洋諸島系アメリカ人のLGBTQを支援するNPOのウェブサイト
 The National Queer Asian Pacific Islander Alliance (NQAPIA)
・NQAPIAが19カ国語で作成した家族向けメッセージ(画像ファイル)
 家族は家族。... 愛は愛。... |NQAPIA

《ブログ内関連ページ》
子供にカミングアウトされた日系人母の恥と誇り
韓国系アメリカ人レズビアンとおばあちゃんの会話