2019年11月15日金曜日

車いす、義足、糖尿病、聴覚障害、同性カップル。人の多様さを反映するお人形たち

乳母車と赤ちゃん、子供の人形
年末商戦の時期が近づき、おもちゃの話題を目にする機会が増えてきました。
主に女児向けに販売される人形には女性の可能性を育むことや多様性を求める声が多く、批判を受けつつ変化もしてきました(欧米中心の話かもしれませんが)。
調べていたら面白くなってきたので、気まぐれにまとめてみます。
画像と広告が多めで、ちょっと長くなってしまいました(全7項目)

1. 車いすと義足のバービー

マテル社のバービーは長い間「非現実的な体形を美化している」などの批判を受けてきました。現在では体形や肌の色の選択肢も増えています。
職業も大統領やNASCAR(カーレース)のドライバーなど、ジェンダーのステレオタイプに陥らない設定が増え、職歴は現在では200を超えるそうです。

今年2月には車いすと義足のバービーが発表され話題になりました(発売は6月)。制作過程では実際に義肢を使っている子供にも話を聞いたそうです。
ある種の障害のある人々にとって、自らと似たルックスのバービーに会えるということは、とても大きな意味をもちうる。実際、多くの研究結果が、人形の外見が、それで遊ぶ子どもたちに影響を与えることを示している(とはいえ、人形では表現しきれない障害が多いため、身体に障害のある子どもたちに、同じような外見の人形が与える影響に関する研究数は限られる)
車いすや義肢を使う「バービー人形」は、子どもたちの無限の可能性を示している|WIRED
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※ 義足のバービー(下画像一番左。Fashionistas Doll #121)も車椅子バービー(Fashionistas Doll #132, #133)も現時点では日本で販売されていないのか、公式ショップでは見つかりませんでした。

実はバービーにはかつてベッキーという車いすに乗った友達がいたのですが、バービーの家(ドールハウス)がバリアフリーではなかったため(購入者から苦情が出て)やがてベッキーは姿を見せなくなった、という妙にリアルな「黒歴史」があります。

今回はバービーということで大きな注目を集めましたが、車いすや義肢のお人形自体は以前からあったようです。下の記事ではLEGO(レゴ)の車いす人形などにも幅広く触れ、こうした人形が子供の身近にあることの重要性を語っています。
徳田教授の研究室では、こうした玩具を使った子どもの遊びの研究をしてきた。5人の子どもにバービー4体と車いすに乗ったベッキー1体を渡したところ、誰もベッキーで遊ばず、「ベッキーちゃんは舞踏会には行けないよ」などと仲間はずれにしてしまったという。だが、大人が車いすの操作方法などを紹介するとベッキーも仲間に入れ、最後はベッキーの取り合いになるほどになった。
車いすバービー登場に喜びの声 「自立したアクティブな存在」|AERA dot.

2. 糖尿病と聴覚障害のアメリカン・ガール

病気や障害を持つ子供に力を入れているのが、マテル社傘下のアメリカン・ガールです。
もともとは、お人形遊びを通してアメリカの歴史を学ぶというコンセプトのブランドで、例えば、メロディというキャラクターは人種差別に立ち向かう60年代の女の子という設定です。

アメリカンガールのもうひとつの売りは、肌や目の色などを細かく選べる「Truly Me」シリーズで、男の子バージョン(#74~#77)や病気で髪がない子を想定した髪なしバージョン(#70~#73)もあります。
豊富な小物類のなかには車いすはもちろん、補聴器や糖尿病ケアの器具も用意されています。
・糖尿病ケア・キット Diabetes Care Kit for Dolls | American Girl
・補聴器は「病院」で取り付けてもらうシステム Doll Hospital | American Girl
糖尿病ケア・キットは2016年から販売されていて、専門家や、実際に1型糖尿病のデザイナーが関わっているそうです。
Dolls With Disabilities Escape The Toy Hospital, Go Mainstream | NPR (2016)

こうした人形が女の子を勇気づける方向で多様化するかたわら、「男の子が遊びづらい」「男の子向けの人形ってヒーローや兵士ばかりで、実は選択肢が狭くない?」という声もあります。
Where Are the American Boy Dolls? | The New York Times (2014)

選択肢を増やすため、例えば、おもちゃ自体から性差を減らす、売り場や広告から「男の子向け/女の子向け」の分類をなくす、「男の子が女の子のおもちゃで遊んだっていい」と社会の意識を変える、など様々な方法が試されています。

3. 「男の子の大事な部分」も付いたお世話人形

日本では今年7月、バンダイがお世話人形の「レミン&ソラン」シリーズに初めて男の子の人形「ホルン」を加えました。
「男の子でも手に取りやすい」人形として開発され、公式サイトやプロモーション動画にもホルンで遊ぶ男の子が登場しています。
下の記事では、バンダイの木村さんという方がインタビューに答えています。
【木村昂平さん】女の子向けのおもちゃを男の子が遊んだり、男の子向けのおもちゃを女の子が遊んだりすることは今も昔も変わらずあることだと思います。それと同時に、今後ますます男の子にも女の子にも楽しんでもらえるおもちゃが増えていく可能性は大いにあると思います。
おもちゃ業界にもジェンダーレス、男の子の”お世話人形”発売で広がる選択肢|ORICON NEWS


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4. アンパンマンは誰が持っていても変に思われないかも

男の子も手に取りやすそうなお世話人形としては、同じくバンダイが2016年から「やさしさ育つよ なかよしアンパンマン」を発売しています。これはアンパンマンを赤ちゃんに見立て、ミルクをあげたり歯を磨いてあげたりするセットです(「あかちゃんまん」ではだめだったのかな?)
過去にはドラえもんのお世話人形も存在したようです。
公式サイト

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5. キティちゃん、パブリックイメージに悩む

そういえば、8月にはキティちゃんの発言が素晴らしいと話題になりました。
YouTuberとして活動している動画の中で、視聴者から「男性でキティちゃんが好きなのはダメ?」と聞かれたキティちゃんは、「ダメじゃない!」と断言した上で「キティの力不足もあって女性のためだけのものっていうパブリックイメージから脱却できていない」と反省しています(動画2:15あたりから)
「でも、ゆくゆくはね、イメージとかももう関係なく、キティのことだけじゃなくて、誰のどんな“好き”も否定されない、否定しない、そういうふうになったらいいなってキティは思ってるから、がんばる。がんばるからね!」
1周年記念コメント返しスペシャル?質問コーナーもあるよ!【ハローキティのコメント返しVol.4】|YouTube


6. おもちゃにジェンダーはない

9月には、これもマテル社がジェンダーを限定しない「Creatable World」シリーズを発表しました。人形から性別を特定する要素をなくし、ウィッグなどを使って幅広い着せ替えが楽しめるというものです(現在、全6種類)
「人形は女の子の遊び?いえ、全ての子どものもの」ジェンダーニュートラルな人形が誕生した理由|BuzzFeed(2019)

インスタグラムに投稿された動画。
「彼は女っぽい遊びをしてる」という言葉を見た人形が、「彼は子供らしい遊びをしてる」に書き換えるもので、同様の動画がいくつか投稿されています。



7. 同性カップル家族の人形も登場

10月には、オーストラリアのKマートが同性カップルを含む人形のセット「Family Playset」を発売しました。
セットには両親と子供、ペットなどが含まれていて、両親の組み合わせは男女、男男、女女の3パターンあります。さらにネット販売に関しては、3パターンのうちのどれかがランダムで送られてくる方式を採用しているそうです。
同性カップルが標準セットになっているという点が重要なのだとは思いますが、全員白人だという点が批判されている[*]ようですし、人形の種類を少し増やしてバラ売りの中から組み合わせられると楽しそうです。
Family Playset - Assorted | Kmart
* Kmart Is Winning New Fans With These Same-Sex Family Doll Sets | HuffPost

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